ルポ 貧困大国アメリカ

堤未果

いまや神話となった「アメリカンドリーム」に押し潰される形で、下層階級のみならず中流層までもが貧困へと転落していくアメリカ社会のリアルな現状を綴ったルポルタージュ。本書とその続編(ルポ 貧困大国アメリカ II)にて、物価高騰でファストフードしか食べられない子供たちの肥満化、ハリケーン・カトリーナでの政府の棄民政策、詐欺まがいの学費ローンで一生払えないほどの借金を背負う若者たち、人命ではなく金儲けを優先するビジネスの場と化した医療現場などをレポートする。

怖ろしいのが、一度社会的弱者に転落してしまったら、もう二度と立ち上がれない構造になっていること。特に、仕事を失い借金だらけで明日の生活に希望を持てない人たちに目を付け、言葉巧みにイラクの戦場に送り込む人材派遣ビジネスは圧巻。1年ほどの労働を終えて帰国したところでその後は打ち捨てられ、ホームレスになったりPTSDで自殺する人が多いというのだ。

これらはすべてアメリカで起こっている現実ではあるが、この「一部の人だけが巨利を得、下との格差がどんどん広がっていく」という構造はどこかで見たことがないだろうか。そう、グローバル化、新自由主義経済の美名のもと、弱者切り捨てが進む我が日本である。著者の堤未果氏は作中で直接触れてはいないが、行間を読めば、TPPやデフレ深刻化で日本が貧困国へと転落することを示唆しているのは明らか。決して対岸の火事ではない。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です