「瑞穂の国の資本主義」を旗印に、皇室を中心とした皆が助け合う伝統的な日本の姿を取り戻すべく、デフレ経済を終息させる決意を表明した安倍総理。それはつまり、ウォール街をはじめとした一部の人しか儲からないシステムのグローバリズムとの決別であるはずだったのだが、ここに至ってその矛先がおかしな方向を向きはじめた。アベノミクス第一の矢「金融緩和」、第二の矢「財政出動」により、たしかに株価は上向き、1ドル70円台という超円高も解消された。だが、第三の矢「成長戦略」には、規制緩和、民営化、自由貿易(TPP)など、デフレ脱却どころか促進する政策が盛り込まれていた。経済評論家の三橋貴明氏が、国民経済のあり方と密接に関わっている安全保障を、構造改革主義者への警戒を説きながら熱く語る。
三橋氏は「安倍総理、初心に戻ってください」と訴える。その根拠として「デフレ期の規制緩和と安全保障強化は両立しえない」という結論を導き出し、軍事のみならず、食料、エネルギー、建設、流通など、私たち国民の生活と切っても切れない安全保障の分野において供給能力が毀損されつつある現状を解説する。構造改革主義者が言うがままに市場を完全に自由化した結果、地場産業を支える企業が体力を失って倒産してしまったとしたら、新規参入した外国企業が日本国民を助けてくれるとでも思っているのか。このまま一部の株主や経営者だけが儲かるシステムが蔓延していったとしたら、いつかは日本もアメリカのように高い医療保険を支払わされ、低所得者は治療を受けられないことになるかもしれない。だからこそ、三橋氏は国柄を破壊するグローバリズムに傾倒しつつある安倍総理に「瑞穂の国」の核心について問いかける。
デフレギャップ(供給能力が総需要を上回る)や量的緩和(インフレ率の向上)といったデフレ論から、政府に取り入って儲けを得ようとする民間議員(政商)の存在、震災というショックで規制緩和を働きかけるロビー活動(レント・シーキング)の暴露など、今作でもいつもの三橋節が炸裂。タイトルにこそ「TPP」「エネルギー安全保障」とあるが、それを前面に押し出して解説しているのではなく、あくまでも「経世済民」、つまり国民を救うための経済という概念に則り、新古典派経済学やグローバリズムへの警告を中心に論を進めているところはご愛敬といったところか(※エネルギー安全保障については巻末の中野剛志との対談で詳述されている)。純粋にTPP、エネルギー問題を語った作品ではないが、現在の日本経済が内包している危険性について敏感な方なら読んでおいて損はないだろう。