マスコミが絶対に伝えない 「原発ゼロ」の真実

三橋貴明

2011年5月6日、菅総理大臣(当時)は突然記者会見を行い、中部電力の浜岡原発に対し、全原子炉の運転停止を要請した。代替エネルギーを準備したわけでも何でもなく、単にポピュリズムにより停止命令を下したのだ。この頃から、日本国内で「原発はすべて停止するべき」という空気が醸成されていき、現在国内の17の原発が稼働を停止するに至った。その代わり、「再生可能エネルギー」という美名のもと、太陽光発電や風力、水力など、自然エネルギーを活用した発電手段がにわかに脚光を浴び始め、それらにより発電された電気を電力会社が買い取る「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」なる制度が生まれた。電力という巨大産業の構造が切り崩され自由化が推し進められていく中、果たして私たち国民が恩恵(安い電気料金)に預かることになるのか、また電気の安定供給というこれまで維持されてきたエネルギー安全保障は担保されるのか。経済評論家の三橋貴明氏が、原発稼働停止により脅かされる私たちの生活、原子力や放射能に関する基本的な誤解、金儲けのタネにされているFITの真実などについて、国民への警告とも取れる緊迫のメッセージを発する。

日本は資源小国である。資源小国とはエネルギーの自給率が低い国という意味で、日本は4%台しかない。これは海外から鉱物性燃料などの輸入をストップした場合、生活や経済活動の95%が不可能になるということであり、すべての原発を停止したいま、石油やLNGを満載したタンカーがどこかの海域や海峡で足止めをされてしまうと、たちまち私たちの生活が立ちゆかなくなってしまうことを意味する。そうはならなくとも、ロシアからの天然ガス供給に依存しているウクライナの例があるように、LNGの需要増で相手国に足元を見られてどんどん価格を吊り上げられ貿易赤字が膨れ上がっているという現実がある(2013年の対カタール貿易赤字は約360億ドル)。「原発反対!」の声に押されて全原発を停止し、再生可能エネルギーがその代替エネルギーになりきれていない中、日本は国民の税金と安全保障を海外に垂れ流しているのが現状なのだ。

また、FITについてだが、これはすでにドイツが悲観的なレポートを公表している。曰く、「再生可能エネルギー法は電気代を高騰させるのみで、気候変動の防止も技術改革も促進しない」とのこと。ドイツでは発電に占める再生可能エネルギーの割合が23%にも伸びたのだが、それと同時に利用者は1人あたり年間4万円を超える賦課金(日本の再エネ賦課金と同じ)を支払わされているという。この賦課金は、FIT事業者が発電した電気を電力会社が買い取り、その料金が利用者に転嫁されて生じるものだが、日本では太陽光発電の買取価格が欧州各国と比べて2~3倍近くに設定されている。海外を含めたFIT事業者によって、日本の太陽光発電市場は「おいしい」と見られるのも当然だ。最近になって、なかなか事業を開始しない業者などに対し手入れが行われたようではあるが、ほぼザル状態で典型的なレントシーキングとなっていることに変わりはない。

三橋氏は何も無条件で原発を擁護しているわけではない。原発に代替する発電手段が確立していないいま、感情論だけで全原発を停止させたのは愚の骨頂であると批判していると同時に、全国の原発は耐震性を強化させたり津波防止用の高い防護壁を設置するなど、その安全性を徹底させていることをマスコミが国民に周知していないことに異議を唱えているのだ。加えて、放射線を何シーベルト浴びるとどうなる云々といった誤った情報も詳細なデータとともに糺す。とどのつまり、自ら足枷をはめ、国民の生活をないがしろにしているのがいまの日本なのだ。世界屈指の電力サービスを誇った日本の神話が崩れ落ちようとしている。「電力とは、国家なのである」。三橋氏が本書の最後に刻んだこのメッセージを噛み締めたい。


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