台湾烈烈 世界一の親日国家がヤバイ

宮崎正弘

李登輝氏が総統時代に言い放った「中国と台湾は特殊な国と国との関係だ」という発言により、台中関係は大きなうねりに巻き込まれる。2000年に台湾独立綱領を掲げる民進党に政権が移ると、そのうねりはさらに激烈になるかに思われた。しかし、陳水扁総統(当時)は党是も李登輝氏の「二国論」を退け、独立路線を不鮮明とし中国投資拡大路線に転向してしまった。「中国とは文化経済の統合を図り最終的には政治統合に至る」という中国傾斜の姿勢を見せたため、旧来の民進党支持者は深い失望感を味わった。2008年の総統選挙で国民党の馬英九が当選すると、中国一辺倒の政策はもはや隠しようのない明々白々の事実に。「大三通(台中両岸の通商、通信、通航)」を実現させ、台中間で直行便が飛び交うようになり、台湾企業の中国への投資が爆発的に増えた。「このままだといつの間にか一国両制が適用され香港やマカオの二の舞いになる」との警告も馬耳東風だ。中国とのビジネス拡大だけが台湾の国益と勘違いする馬英九政権の政策は、台湾を中国に売り渡すプロローグではないかとの不安を台湾人に植え付け、それが経済の失速や失業の増大、株価急落へとつながった。馬英九の支持率は9%にまで急落した。

そんな中、台湾の学生が立ち上がった。2014年3月17日、馬政権が中国とのサービス貿易協定をろくに審議もせず強行採択に踏み切ったことで、18日夜、不満を爆発させた学生たちが立法院(国会)に突入し占拠した「ひまわり学生運動」だ。学生たちは台中間のFTAとも言えるサービス貿易協定の撤回を馬政権に求め、この要求に応じるまでは立法院の占拠を継続すると表明。この運動に賛同した大勢の市民が学生たちを支援し、国民党の中国融和政策に強く反対する抗議集会(3月30日)には50万人もの人が集まった。支持は全国的に拡大し、食料の差し入れや移動トイレの供給、また日米欧などへ連日プレスリリースを発し彼らの運動は世界に伝播した。これに対し、馬英九は「学生の要求は中国統一の基盤に立っていないので承認しがたい」と歯切れ悪く発したのみだった。学生たちは4月10日に立法院占拠を終焉させたが、この運動が11月29日の統一地方選挙で国民党が惨敗するきっかけとなったことは言うまでもない。

このように、本書は政治経済の面で揺れ動く台湾をテーマにした一冊だが、著者の宮崎正弘氏が中国の専門家ということで、台湾に多大なる影響を与え続けている中国を視点にした書き方もしているところは興味深い。特に、対中傾斜が著しくなり、日本と同じくらい、いやそれ以上の台湾企業が福建省や広東省に大々的に投資したことで、脱中国に悩む日本企業と同じ仕打ちに遭っている現実には目も当てられない。ほかにも、宮崎氏が直接交流を持つ文化人や企業家にスポットを当てたくだりなど、類書であまり見かけないリアルな台湾情報に触れることができ有意義でもある。タイトルにもある通り、台湾が「世界一の親日国家」であることは割とよく知られているが、国際的には未承認国家でありアメリカからはそっぽを向かれたり中国からは絶えず圧力をかけられており非常に不安定だ。台湾がこれからも親日でいてくれるためには、彼らがどのように闘っているのかどのように苦悩しているのか、私たち日本人が認識を改めないといけない。


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