世界を操る支配者の正体

馬渕睦夫

イギリスの地政学者マッキンダーは「東欧を支配するものがハートランドを制し、ハートランドを支配するものが世界本島(ユーラシア大陸)を制し、世界本島を支配するものが世界を制する」と喝破した。そのハートランドの核をなすロシアとウクライナで、火種がくすぶり続けている。2013年11月に発生したウクライナにおける反政府デモの結果、親欧米政権が誕生すると、ロシアがクリミア半島編入、アメリカ主導の対ロシア経済制裁、そしてウクライナ東部でのマレーシア航空機撃墜事件が立て続けに起こった。これら一連の流れは、偶発的あるいは自然発生的に起こった出来事なのであろうか。著者の馬渕睦夫氏は、この世界支配の跳梁となるハートランドを舞台に暗躍する黒幕のにおいを嗅ぎ取る。なぜアメリカはマレーシア機撃墜の衛星写真を公開しなかったのか。なぜウクライナは弱体の進路は武装勢力を徹底的に取り締まらなかったのか。馬渕氏は、その背景にロシアを挑発して世界から孤立させ、ロシアが持つ石油や天然ガスなどの国富をぶんどる狙いがあると見る。

具体的には、ロシアのプーチン大統領の政治的抹殺である。ロシア愛国主義者のプーチンを失脚させて、ロシアをグローバル市場に組み込むことがウクライナ危機の隠された目的だ。そのために、ウクライナを利用して大掛かりな偽装作戦を行い、プーチン登場前のユダヤ系新興財閥が牛耳っていた当時のロシアに戻そうとする計画が進行している。その黒幕こそが、アメリカの衣を着た「国際金融勢力」。馬渕氏の著作ではお馴染みのキーワードだが、ロックフェラーやロスチャイルドといった国際金融資本家が、政府が彼らによるコントロールを免れているロシアに牙を剥いた。そもそも、1917年のロシア革命は純粋な共産革命ではなく、当時迫害されていたユダヤ人を解放するため、ロンドンやニューヨークの同胞が支援して成し遂げられた革命とのこと。その第二幕となる今回は、ロシアをグローバル市場に組み込んで支配下に置き「世界政府」を樹立するのだという。このあたり、「アラブの春」と称された北アフリカ・中東での一連の革命とよく似ている。まず不自然な反政府デモ突如起こって、それから民主化を謳った暫定政府が誕生する。これがまさに「民主化、民営化、グローバル化」と、アメリカがよくやる三段階レジーム・チェンジの手口だ。

こうした世界情勢の中、馬渕氏は日本とロシアの強固な連携を訴える。現在の世界における主要なアクターは、日本とロシア、そして国際金融勢力(表舞台に出るのはアメリカ)だと言い切り、完全なるグローバル市場化への圧力に協同して対抗していくべき理由を述べる。「伝統」を重んじる両国においてはグローバリズムとナショナリズムの共存が可能であり、価値観をも共有できる。また、2015年は戦後70年という節目の年だ。反日パフォーマンスをなお一層強化してくるであろう中韓に対しても日露の連携は必須だと説く。本書を通して、アメリカからのグローバル市場加圧力にさらされているロシアの運命は、日本の運命にも密接に重なっていることを読み取らねばならない。


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