他人を攻撃せずにはいられない人

片田珠美

攻撃欲の強い人というのは、暴力を振るったり暴言を吐いたりするなど、怒りや敵意をむき出しにする人たちばかりではない。こそこそと陰湿に相手を痛めつけ精神的に大きなダメージをあたえることで、自らの攻撃欲を満たそうという人もいる。そのやり方は実に巧妙に計算されていて、周りからは攻撃性が見えにくい。しかも、攻撃されている当事者ですら、自分がターゲットであることに気づいていない場合もあるから厄介だ。一旦ターゲットにされると、くたくたに疲れ果てたりボロボロに破壊されたりして大変な目に遭う。精神科医の片田珠美氏が、こうした攻撃欲の強い人とどう向き合い対処すべきか、そして一刻も早く呪縛から解放されるための心構えを伝授する。

攻撃欲の根底に潜んでいるのは、たいてい支配欲だ。相手を思い通りに支配したいとか、操作したいという欲望を抱いているのだが、こうした欲望を当の本人が意識しているとは限らない。相手を破壊するようなことをしておきながら、「仕事上必要なことだ」とか「あくまでも愛情からやっている」など思い込んでいる場合もある。こうした行動に出てしまうのは、「自己愛」の強さからだという。それは排他的という意味での自己愛であり、自分が支配し続ける状況を維持するために、それを脅かしかねない邪魔者を排除すべく徹底的に破壊しようとする。自信がない人ほど、優秀な相手を前にすると、過小評価したり無価値化したりして自己愛の傷つきから自分自身を守ろうとするのである。

では、どうすれば攻撃者から身を守れるかだが、まずはどういったタイプの人が狙われるのかを知る必要がある。攻撃者と自分自身との関係がアンバランスで理不尽なものだと気づいていながら、反論も抵抗もできない人が第一であるが、他人に気に入られたいとか認められたい人、他人からどう見られているか気になって仕方がない人もターゲットになる可能性が高い。こうした関係が続くほど、自信や自尊心が持てなくなって攻撃者への心理的依存が一層強まり、支配―従属関係にますます拍車がかかっていってしまう。

本書では、攻撃者の心理、ターゲットにされた際に脱却するための方策が詳述されているが、いちばん留意していおきたい点は、攻撃欲の強い人はターゲットの罪悪感をかき立てる達人であるということ。したがって、こちらに責任があるのだと思い込まされてしまいやすい構造を見抜くことが先決である。このような責任転嫁は、攻撃欲の強い人が自分の問題や弱点を突かれるのをどうしても避けたいからこそやっているのだということに気づけば、投影された罪悪感に苛まれて悩む必要はなくなる。ターゲットにされていると自覚している人はもちろんのこと、ここのところ周囲からの反応が険悪化したと感じ始めた人も一読することをお勧めする。また、特に職場のリーダー的な立場にある人も、いつの間にか自分自身が攻撃者になっていて部下に不愉快な思いをさせていないか、省みるきっかけとしてもよいだろう。


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