旅のラゴス

筒井康隆

旅をする人というのは、出発前に定めた目的地に真っ直ぐ向かっていくタイプと、まずは異世界に飛び込んでから旅の目的を探しながら歩を進めていくタイプとがあると思う。果たして本書の主人公ラゴスはどちらのタイプだったのか。一読して、確固とした答えを見出すことはできなかったが、ラゴスは明確な目的を当初から持っていたのではなく、訪れた街々で出会った人、体験した物事から、旅をする目的というより、自分自身の最適化を図っていたのではないかという気がする。最適化とはどういうことかというと、どうすれば自分がこの世界で唯一の存在となり、世界を潤すことができるひとかどの人物になることができるかという思索を体系化すること。要するに、自分探しの旅というやつで、まったくあずかり知らぬ土地で自分がどう振る舞って食いつないでいけるかを実践していくことだ。

舞台は中央アジアや中東あたりで、時代は中世を想起させる。ラゴス自身は都会から来た者であるらしく、彼が訪れる街々は現実の世界で言えば、モンゴルやカンボジア、インドあたりが連想される。日本人がバックパックを背負って安宿の旅をしているようなものだろうか。それゆえ、ラゴスは新しく訪れる街で必ず連れができ、何事かの事件に巻き込まれる。壁抜け芸人の捕り物に駆り出されたり、捕虜となって銀鉱山で酷使されたり。中でも、ラゴスが最も長期間滞在した王国では、ふたりの娘を嫁に取り、門外不出の書物を読みふけ、この世界のどこにもない学術を身につける。その後、盗賊に捕まるが冷静に対処して切り抜け、自分の生まれ育った街で大学講師として王国の書物から得た知識を学生たちに伝授する。だが、ラゴスは得た知識すべてを伝えたわけではない。技術や文化の発達は段階的でなければならず、唐突に最新技術を伝えたところで進歩はしないということを知っていた。ラゴスが振るった匙加減は何を基準としていたのか、それはわからない。

そんなラゴスが旅する中で求め続けたもの。それは、集団転移の村で見初めたデーデという女性の後ろ姿だった。だが、デーデと結びつくことが不可能と知ったラゴスは、氷の女王が住むという極北の血へと向かう。生きて帰ってきたものはいないと説得する同行者の反対を振り切って、氷の国へと入っていくラゴス。彼は氷の女王に何を思い、何を期待していたのか。目的を果たし帰還することはできたのか。その答えを知るには、この作品の世界観にどっぷりと浸かること以外ありえない。


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