政府はもう嘘をつけない

堤 未果

「ですが、目を開けてよく見て欲しいのです。わかりやすい善意の裏に何が隠されているのかを。2008年以降、国際メディアがなかったことにしようとしていた〈真実〉こそが、世界中の99%に知らされるべきなのですから。(中略)パナマ文書の部分リークは氷山の一角、一歩引いて全体を見てみなさい。今世界で起きている、もっと巨大な危機が見えてくるから」。パナマ文書に名前が載っていたとして首相が辞任を求められた、アイスランド出身のとある牧師の言葉である。新自由主義に染まりマネーゲームに興じていたアイスランドは、リーマンショックの煽りを受け、GDPの25%に当たる5000億ドルという巨額の負債を背負って破綻。IMFから融資条件として医療費30%切り捨てを提示されると、穏やかな国民性で知られるアイスランド国民が立ち上がった。鍋やフライパンを叩きながらの抗議に屈した政府は、国民投票を行い、IMFの緊縮財政案を拒否、大手銀行のCEOを含む200人に逮捕状を出した。その後、アイスランドは医療関連予算を大幅に増額し、経済を順調に回復させ借金も返済、2012年以降はユーロ圏でも目覚ましい成長を遂げている。

マネーゲームで破綻した国は、債権者である金融業界に借金を返すためにIMFにカネを借り、その条件に切り売りした国の資産やインフラや社会保障をグローバル企業群に最安値で買い叩かれる。最後は国際弁護士がやって来て、ISDS裁判で最後の一滴まで搾り取られるという、どうやっても1%が儲かるパターンができあがっていた。アイスランドは、それを完全に翻した。IMFにノーを突きつけ、医療や教育や年金や雇用といった社会的共通資本になけなしの国家予算を投資することによって国を立て直し、借金も完済してしまったのだ。だが、同時にアイスランドは1%層の虎の尾を踏んでしまった。欧州メディアはこのアイスランドの革命は徹底的に無視していたのだが、突如として大々的に取り上げるようになる。それは、2016年4月にパナマ文書で名前を暴露されたアイスランドのグンロイグソン首相が辞任するというニュースだった。アイスランド復活の立役者であるグンロイグソン首相は、パナマにある会社の存在をきちんと国民に公開していたにもかかわらず、スキャンダル扱いされてしまった。さらに不可解なことに、金融危機の責任を問われ収監されていた銀行家が釈放されたのだ。これを、強欲マネーゲーマーたちの逆鱗に触れたと言わずしてなんと言おう。

こうした事例はアイスランドに限らないことは言うまでもないだろう。ジョージア(グルジア)、ウクライナ、キルギスにおける一連のカラー革命、アラブの春、そしてアメリカでも同じようなことが起こっている。「チェンジ」の謳い文句で国民目線の政策を期待されたオバマ大統領は、過去最大級の企業献金が示す通り、大企業寄りとなった。「1%のスーパーリッチどもからこの国を取り返してみせる」と訴え喝采を浴びたドナルド・トランプ候補は、集会を荒らされ怒鳴り散らす姿がテレビに映し出される。ヒラリー・クリントン候補に至っては、「金権政治にメスを入れる」と豪語するも、名だたる大企業から莫大な講演料を得ていた。アメリカの若い世代はとっくに気づいている。アメリカの抱える問題が「政治とカネ」という構造にあり、超富裕層だけが潤う株式会社国家となってしまったことを。これらは私たち日本人にとって、まったく他人事ではない。政府はなぜ国家戦略特区をつくり規制緩和を急ぐのか、なぜ医療や農協の改革を急ぐのか、なぜTPPなのか。そしてなぜ安倍総理は「日本を世界一ビジネスしやすい国にする」と高らかに謳い上げるのか。その原因を追究することを国民が諦めた瞬間、身の回りにあるすべてのものに値札が付けられていくのだ。


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