黒い家

貴志祐介

およそ人とは思えぬ残忍な手法により保険金詐取を企む人非人と、それに巻き込まれる形で恐怖に追い詰められていく保険会社スタッフを描いたサイコホラー。身の毛がよだつような凄惨な描写はもちろん、心理学、生物学、臨床医学などさまざまな視点から人間の内面をえぐり出し、モラルの崩壊しかけた現代日本において誰もが猟奇的殺人鬼になり得る可能性を示唆している点も興味深い。

『クリムゾンの迷宮』『青い炎』といった貴志祐介氏の作品の中でも、これがいちばん怖かった。読み進めていくうち犯人ならびにラストが容易にわかってしまうことはいつものことだが、前半に張り巡らせた伏線を後半のジェットコースター的展開で一気に回収していく構成の妙はさすが。最後の100ページほどは、あまりの緊張と戦慄で全身硬直したような状態で読んでいたほどだ。

10年以上前の作品なのでホラー好きの方ならもうチェックしていることと思うが、未読で、かつ呼吸が止まるほどの緊迫感のもとページをめくる喜びを感じたいという方にはオススメ。ただ、「秋の夜長に・・・」などというような軽い気持ちで手に取る本としては向かないだろう。私の場合、今後、強い香水の匂いを放つ女性に接する姿勢が変わってしまいそうだ。


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