感染症と文明――共生への道

山本太郎

感染症の根絶は、人類が誕生し活動を開始してからのテーマのひとつであり、それは現在に至っても解決を見ず継続している。感染症は「持ち込まれる」ものであるという一面もあるが、人類史上、人が集団をつくり文明を発祥させるたびに、感染症の病原体は活発となって大流行をもたらす。それは他民族からの侵攻の防壁として機能するという側面はあるが、いったん収まってから侵攻を受け、新しい民族に文明を引き渡すと、その民族が持ち込んだ病原体が人口密集により活性化するということの繰り返しであった。

かつて数万を擁したインカ帝国軍が、たった数百人のスペイン人によって征服させられた。この理由として、スペイン人がもたらした感染症が引き金になったということはジャレド・ダイアモンドのベストセラー「銃・病原菌・鉄」でも紹介されている。

現代では、ペストやマラリア、天然痘など代表的な感染症は、ワクチンの開発によりほぼ根絶させられている。だが、それで人類は感染症自体を克服したわけではない。SARSやエボラ出血熱などの新型の感染症が発生しているからだ。こうした現実を踏まえ、著者は感染症を撲滅することに主眼を置くのではなく「感染症と共生する」という選択肢を提案する。具体的には、感染症の病原体が体内に宿ったとしても潜伏期間を長く(100年くらい)コントロールすることができれば、他の感染症に対する防壁担ってくれるということだ。だが、著者が語るように「共生とは、理想的な適応ではなく、決して心地よいとはいえない妥協の産物なのかもしれない」ことは念頭に置いておかねばならない。


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