小学4年生の「アオヤマ君」は、ある日、登校中に不可思議な光景を目の当たりにする。歯科医院を過ぎたところは空き地になっており、電信柱に囲まれてコンクリートに小さく区切られた草原がずっと続いているのだが、そこの真ん中にペンギンたちがたくさんいてよちよち歩きまわっていたのだ。「毎日の発見を記録しておく」ことを日課とし、つねにノートを持ち歩いているアオヤマ君は、町に突如として現れたペンギンの正体を暴くべく研究対象とすることにした。「ペンギン・ハイウェイ」。ペンギンたちが海から陸に上がる時に決まってたどるルートのことだが、アオヤマ君は研究のタイトルとして名付けた。アオヤマ君はクラスメートのウチダ君、ハマモトさんとともに共同で研究を進めていく中、身近な人物から思いがけずペンギン出現の謎を解くであろう事実を見せつけられる。その人物とはアオヤマ君が通っている歯科医院で働くお姉さん。アオヤマ君と連れ立ってバスターミナルに行った時、お姉さんがペンギンを出現させてみせたのだ。お姉さんは自動販売機で買ったコーラの缶を空中に放り投げると、缶が膨らんで真っ黒な翼が側面から飛び出し、クチバシが突き出てきた。ペンギンだ。「あれは、なんですか?」と呆気にとられるアオヤマ君に、お姉さんが「ペンギンでしょ」とそっけなく答える。アオヤマ君の研究対象にお姉さんも加わった。
アオヤマ君たちは、森の奥でハマモトさんが見つけたという「海」と呼ばれる場所へと足を踏み入れる。そこには、宇宙船のような物体が浮遊していて、ペンギン現象と同じくらい不可思議だ。さらなる研究対象に冒険の度合いが増していく中、スズキ君というクラスのいじめっ子が横槍を入れてきて、「海」が暴走。ついには大人たちに知られることとなり、町は調査のため封鎖されアオヤマ君たちはペンギン現象の謎解きから手を引かざるを得なくなってしまった――。本書は、子供の視線に立った想像力あふれるファンタジー小説だが、単純に子供心に回帰させてくれる空想小説というわけではなく、アオヤマ君が父や友人らと交わした会話の中で、私たち大人にもかすかに残る冒険心をくすぐる箇所がいくつもある。たとえば、父と世界の果てについて話していた時、世界の果ては折りたたまれていて世界の内側に潜り込んでいるから世界の果ては遠くないと語ったこと。ウチダ君が自分が死んだらどうなるんだろうと話しだし、他の人が死んでも自分はまだ生きていて死ぬということを外から見ていると語ったこと。小学生の中学年頃というと、まだどんなことにも素直に期待を持て、知らないことに対する好奇心が異常に高くて、大人、特に異性の大人に対してうがった見方のない憧れを抱いているもの。世間の見苦しさから逃げ出したくなった時、もう一度手に取りたい作品だ。