図書館へのこだわり

もちろん本屋で新品を買ったほうがいいに決まっています。
他人の手垢が付いてなく書き込みもなくて綺麗だし、
話題作も長い予約待ちをせずともすぐ手に入るし、
何より返却せずにずっと手元においておける(不要なら売却もできる)。
また、便利さ迅速さで言ったらキンドルに代表される電子書籍だって捨てがたいでしょう。

でも僕は図書館の本が好きです。
それも、何ヶ月も待たされてようやく回ってきたヨレヨレになった本にとてつもない愛着を感じます。
たとえ数週間後には返却しなければならないとしても、
その限られた日数だけでも知的な会話という名の読書体験ができることに幸福感を覚えます。

だって、人間が年をとるごとに顔にシワが刻まれていくように、
数多くの図書館利用者の手を通して僕のもとに回ってきた本からも「年輪」を感じ取ることができるから。
薄茶色に日焼けしていたり油のシミがあったり折り目があったりでまるで老人のようだけど、
注目の場面、重要な箇所、ちょっと意義のある部分、これらをそれとなく教えてくれている。
読んでいるのは僕ひとりだけど、これまでの何百人と一緒に読書談義をしているような気にさせてくれるのです。

それに、紙がやさしい。
本屋で買ってきた本は当然綺麗だけど、綺麗すぎて表情がないように思える。
それに、のりが効きすぎててうまくめくれなかったり、紙の端が鋭くて余計な緊張をしてしまう。
その点、図書館で借りた本は綺麗ではないけど、ページをめくるのがとても気持ちいい。
人の手を渡ってこなれた紙は、やさしくしなやかで、次から次へと読書を後押ししてくれるのです。

じゃあ古本屋の本はどうなの、と聞かれそうですが、僕にはかわいそうに思えます。
再販のため黄ばんだ天地を削られて無理やり綺麗に見せられ、
背表紙には値札を付けられ、本の内容にかかわらず不本意な価値を勝手に決めつけられてしまっている。
買われては売られていくうち、どんどんその価値を下げていっている。
商品なのでしかたのないこととはいえ、なんだかかわいそうに思えてしまうので僕は手を付けません。

だから僕は図書館の本が好きです。
気の遠くなるような予約待ちの本だからこそ、胸を躍らせながら待っていられるのです。