精霊の守り人

上橋菜穂子

女用心棒バルサは、ある日、牛が暴れたことで車から川に放り投げられた皇子チャグムを助ける。その功績により王宮にて手厚い歓待を受けるが、実は、王宮に蠢くある陰謀からチャグムを救ってほしいという王妃の懇願を受けるためだったことを知る。その陰謀とは、新ヨゴ皇国の建国神話を否定し国家の柱石を揺るがしかねない運命を背負ってしまったチャグムを亡き者にするというもの。チャグムは、100年に一度卵を産む精霊〈水の守り手ニュンガ・ロ・イム〉に卵を産みつけられてしまったのだ。

後戻りできない状況に陥ってしまい初めは気乗りしなかったバルサであったが、チャグムと一緒に旅を続けていくにつれ、互いの気脈が通じ合っていき、次第に彼を愛しく思うようになる。少数部族のタンダや呪術師トロガイ師との出会い、執拗にチャグムを付け狙う〈狩人〉との死闘、そして現世と別の世界との交わりを通して、チャグムの体に宿った精霊の謎を追う。

ファンタジー小説は10代の頃貪るように読んだが年を経るとともに疎遠になっていた。だが、今回久しぶりに読んでみて、現実離れした世界観に浸りつつページをめくる心地よい疾走感を思い出すことができたのは何よりの収獲だった。ただ、物語が一方通行かつ伏線の回収がわざとらしいほどわかりやすく、それでいて主人公の力量が圧倒的すぎて手に汗握る展開とならなかったのはもったいない。また、作者が文化人類学者ということでリアリティーには大いに期待したのだが、それほどでもなかった(ファンタジーだからという理屈もあるだろうが)のは残念に尽きる。

大人でも楽しめるという触れ込みだったが、私が政治や経済などのリアル過ぎるほどリアルな内容の本に慣れ親しんでいるせいもあってか、どちらかと言えば青少年向けなんだろうなという感想は否めない。本作に快を見出せたらシリーズを通して読んでみようかと考えていたが、その必要はなくなったようだ。


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