戦略の優劣の基準はどこにあるのか。それはその戦略が「ストーリーになっているか」がカギとなる。戦略のプレゼンテーションには「X事業のV字回復戦略」とか「新たなビジネスモデルの創出」といった勇ましいキャッチフレーズが付きものだ。中身も、市場環境やトレンドはどうなっているか、ターゲットとしてどのセグメントを狙うか、値段設定はどうするか、生産拠点は、組織体制は……など実に詳細に検討されている。しかし、これは「項目ごとのアクションリスト」にすぎない。そうした戦略の構成要素が、どのようにつながって、全体としてどのように動き、その結果何が起こるのか。戦略全体の「動き」と「流れ」がさっぱりわからない。戦略が「静止画」にとどまっていると言ってもいい。個別のアクションについては議論を重ねるものの、それが全体としてどう動くかについては議論の俎上に載ることはない。本来は「動画」であるはずの戦略が、無味乾燥な静止画の羅列になってしまう。戦略をつくるという仕事が「項目ごとのアクションリスト」を長くしたり細かくすることにすり替わってしまう。「ストーリーがない」「ストーリーになっていない」というのはそういうことだ。
戦略とは何か。ひとことで言うと「違いをつくって、つなげる」ことだ。この定義の前半部分は競合他社との違いを意味しており、競争の中で業界水準以上の利益を上げることができたら何らかの違いを生み出せたということになる。そして、後半の「つながり」とは2つ以上の構成用の間の因果論理を意味している。個別の違いをバラバラに打ち出すだけでは戦略にはならない。それらがつながり、組み合わさり、相互に作用する中で長期利益が実現されるのだ。ストーリーとしての競争戦略の本質はこうした「違い」と「つながり」であり、それを語るということは「個別の要素がなぜ齟齬なく連動し全体としてなぜ事業を駆動するのか」を説明するということ。個々の打ち手は「静止画」にすぎないが、個別の違いが因果論理で縦横につながったとき、戦略は「動画」になる。ストーリとしての競争戦略は、動画のレベルで他社との違いをつくろうという戦略思考だ。
そのうえで、本書の著者楠木建氏は、戦略ストーリーは終わりから組み立てていくものだとし、起承転結の「結」をまずはっきりイメージすることが先決と指摘する。「結」とは「利益が創出される最終的な論理」のこと。詳細は本書に譲るが、アマゾン、マブチモーター、サウスウエスト航空、ガリバーインターナショナルといった企業の成功事例を紹介しながら、ストーリーとしての競争戦略を紡ぎあげていくヒントを提示する。その中で重要なことは、ストーリーは天才のひらめきでも荒唐無稽な発想の飛躍でもないということ。「一見して非合理だが、理にかなっている」ストーリーこそ必須要件なのだが、本書を通してその戦略思考を学んでほしい。