戦略は歴史から学べ―――3000年が教える勝者の絶対ルール

鈴木博毅

「戦争の大原則に関する知識は、軍事史や多くの偉大な名将たちの戦いを勉強することや実際の経験を通してのみ、得ることができる」。青年将校の身分からフランス皇帝となったナポレオン・ボナパルトの言葉だ。歴史で活躍した名将から戦略を学んだのは、東方遠征で世界帝国を作り上げたアレクサンダー大王しかり、カルタゴの名将ハンニバルしかり、ユーラシア大陸のほぼ全域を支配下においたチンギス・ハンしかり、戦国時代に終止符を打ち太平の世を築き上げた徳川家康しかりだ。こうした名将たちが十全に活用した「戦略」とは、本来「どうすれば勝てるか」を追究した軍事用語である。しかし、人間同士が競争し組織が勝利を目指す意味で現代のビジネスと本質は変わらない。本書は、勝者が覇者に破れ覇者が策士に取って代わられた3000年の世界史を読み解くことで、過去に成功を成し遂げた人たちの「勝利の法則」を考察していく。最強と思われた戦略も万能ではなく、ライバルとの関係や実行する組織環境など、置かれた状況によって戦略の威力は変わってくる。ある時代に絞れば優れた戦略や戦術は固定されるが、3000年間を大局的に眺めると、歴史の中で生き残るための絶対ルールが見えてくる。

・ペルシャ戦争
紀元前5世紀ごろアテネやスパルタなどのギリシャ都市国家郡は、東方の巨大帝国アケメネス朝ペルシャの侵略に立ち向かう。10倍の規模の圧倒的なペルシャにギリシャ連合はどのように戦ったのか。テルモピュライの戦いで惨敗したギリシャ連合は、勝ち目のない陸戦を放棄し海軍力を生かしてサラミスの海戦で劇的な勝利を収める。圧倒的な陸戦力を誇っていたペルシャに対して「強みを活かす」ことでその侵略を阻止したのだ。
・藍田の戦い
中国史上初の統一帝国をつくった始皇帝。7つの国が競った戦国時代に、強者の地位を確保し続けた秦には、覇者になるためにどのような戦略があったのか。秦で重用された謀臣の張儀は「連衡策」を提唱し、各国に一致団結させず一国ずつ秦と関係を結ばせ強者と弱者の関係を固定させた。その中で、強国の楚に斉との同盟を破棄すれば広大な土地を与えると謀を持ちかけ、同盟国を失った楚と藍田で戦いで勝利した。強者が優位を守る「分断」として現代ビジネスにも通用する。
・ワールシュタットの戦い
モンゴル軍は、相手が混乱に陥るまで敵と接触しない戦いつねに追求して、短期間に中国からヨーロッパに至る一大帝国を築き上げた。強弓と騎馬の機動力で有利な距離に引き寄せ矢の雨で殲滅し、その後屈強な重装歩兵が傷ついた敵を徹底的に倒す。他社が太刀打ちできない優位性を前段階で確立し「即応力」で業界を駆け抜けるビジネスに注目したい。

ほか、現代に至るまでの32の戦争から、ビジネスに活かすための戦略が紹介されている。その根本的なテーマである「勝者と敗者を分けるものは何か」については、「局所優位を生み出す力」「強みの活用法・運用法」「外界の翻訳力」「探索力を増強する目標」の4つが浮かび上がる。詳細は本書に譲るが、歴史から学ぶ戦略は時代を超えた強烈な普遍性を持っている。策略、奸計、組織運営、技術革新、リーダーシップ、人心掌握、競争戦略、ゲリラ戦など、人と組織が勝つためのあらゆる知略が総動員されている。現代においても過去においても、圧倒的な組織力を誇る大企業(大国)が他社の追随を許さないこともある一方、名もないベンチャー企業(小国)が大企業を出し抜くことも珍しくない。歴史から戦略を学ぶことで、より賢くビジネスを展開していくヒントを探りたい。


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