静かなる大恐慌

柴山桂太

リーマンショック、ユーロ危機と金融危機に揺れる現在の世界経済、そしてバブル崩壊後、長引くデフレ不況により国民生活ががらりと様変わりしてしまった我が日本。こうした一連の経済危機において、世界史上、類を見ない規模のマネーが乱高下する状況を「恐慌」と呼ばずしてなんと呼ぼう。これに対し、著者の柴山桂太氏は、いま現在は「静かなる大恐慌」の段階にあるとし、その先の闇にて蠢動する物理的な大破壊の存在について警鐘を鳴らす。

自由貿易が拡大した結果勃発に至った第一次世界大戦、その直後の世界大恐慌を経て、列強はナショナリズムを高じさせブロック経済体制へと邁進。それが導火線となり第二次世界大戦が始まった。戦後、ブレトンウッズ体制のもと為替相場を固定し世界経済の安定を図るも、圧倒的なドル高に耐えきれなくなった米国がドルと金の交換停止を発表(ニクソンショック)。世界はグローバルな市場形成へと身を投じていくことになった。

その経済のグローバル化が軋りはじめている。国策によって通貨安に誘導し一方的に輸出を増やす国があれば、国内から目を背け巨大グローバル企業のみ支援する国があり、また産業の空洞化で疲弊した国民経済を軽視する国もある。その典型がEUだろう。統一市場とは聞こえがいいが、その実、域内の他国がどんなに困窮していても比較的豊かな国が率先して手厚い援助を与えるでもないし、そもそも普通の国なら打てる金融政策が封じられているから手の施しようがない。

柴山氏は現今のグローバル経済について、しばらくは継続するであろうが徐々に保護主義(大きな政府)へと向かうと指摘している。この流れが行きすぎると、まさに世界が一度目、二度目の大戦へと突入した経緯と重なってくるのだ。本書は、こうした経済状況をケインズを中心とする経済思想、国際政治、そして歴史等の面から、実に客観的かつ冷静な視線で俯瞰している。結論としては「歴史に学べ」のひと言で済んでしまうが、最後まで読むとその言葉の重みがずしりと腑に落ちるのである。


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