2015年 暴走する世界経済と日本の命運

三橋貴明

「日本を取り戻す」をスローガンに掲げ、国民が豊かになるための経済政策を打つことを強く期待されて誕生した第2次安倍政権。ところが、現実の政策を見ると、むしろ実質賃金を引き下げるものが少なくない。その代表が、言うまでもなく2014年4月に施行された消費税8%への増税だ。一部の企業は増税と同時に賃上げを行ったが消費税増税による物価上昇にはまったく追いつかず、結果、2014年4月から8月にかけて日本の実質賃金はなんと5ヶ月連続で対前年比マイナス3%を上回る落ち込みになってしまった。それだけではない。最長3年となっている派遣活用期間の上限を撤廃する労働者派遣法改正案、企業の人件費を引き下げる労働時間規制の緩和(いわゆる残業代ゼロ制度)、賃金切り下げ競争をもたらす外国人労働者の受け入れ拡大政策など、労働市場における各種の規制緩和は日本国民の実質賃金を切り下げ貧困化の方向に導く政策が検討されつつあるのだ。

日本は少子高齢化により総人口に占める生産年齢人口の割合、すなわち生産年齢人口比率が低下していく構造を持っている。ということは、実は政府が放置しておくだけで国民の実質賃金が上昇し、雇用の安定化も(以前よりは)達成される可能性がある。それにもかかわらず、政府は相も変わらず財政均衡主義にとらわれ、公共事業を抑制し、介護報酬や診療報酬を切り詰めようと図り、さらに消費税増税で実質賃金を強制的に引き下げてしまった。そのうえ、消費税増税と法人税減税の組み合わせは、すでにアメリカの現実が否定したトリクルダウン政策(大企業が儲かれば富が国内に滴り落ちるという仮説)にほかならない。日本は賃金主導型の経済成長を目指さなければならない。雇用の不安は若い世代が結婚できない主因となり、ひいては少子化の直因となる。若い世代を救済する経済政策こそ、現在の日本にとって最も正しい成長モデルであるという事実を安倍総理は理解する必要がある。

ここで世界に視線を転じてみると、グローバリズムに反発する地殻変動が見て取れる。グローバリズム、あるいはユーロ・グローバリズムによるナショナリズムが破壊されている国では、そうした動きが政治的に出てきている。その代表的な事例が、2014年5月の欧州議会選挙だ。フランス、イギリス、ドイツ、ギリシャ、デンマーク、スウェーデンなどの国で「反EU」「反移民」を堂々と政策として掲げている政党が大躍進した。また、スコットランドやスペインのカタルーニャ州が独立を模索する動きも見せ、グローバリズムの象徴だったEU内部において、各国各地域のナショナリズムがあからさまに勃興し始めている。ほか、ますます存在感を減じていくアメリカ、クリミア半島をめぐるロシアとウクライナ(アメリカ)のせめぎ合い、経済危機寸前で反日攻勢を強める中韓両国など、2014年の各国の動向をまとめ、2015年にはどのような道をたどるのか、また日本との関係はどうなるのかを占う。

三橋貴明氏の著作やブログに親しんでいる人にとって、それほど新味のある内容ではないが、現在の国際政治ならびに国際経済がどのような経緯を踏まえて現状に至っているのかを俯瞰的に捉えられるという意味では有用だ。ただ、安倍政権の経済政策への提言は至極まっとうであるものの、「なぜ」正しくない方向に舵を切り出したのかについてはほとんど触れられていない。そこまで期待するのは求めすぎなのかもしれないが、どこか奥歯に物が詰まったような筆致にやや釈然としない読後感がした部分があったことは否めない。


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