「アジア経済の活性化のために投資を活発化させる」「アジア経済は中国が主導し、いずれ米国基軸の国際金融秩序を代替する」という中国共産党の強い宣伝力と意気込みのもと提唱されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)。参加を表明したのは50を超える国と地域で、特に英国、ドイツ、フランス、イタリアなどが雪崩を打って手を挙げたことに、中国共産党機関誌「人民日報」は、「中国の仲間づくりが米国の対抗姿勢を打ち負かした」と賞賛した。政治的環境を一瞥すれば、米国と日本が孤立したような印象がある。この事態を受け、日本では福田康夫元首相が「先進国としてAIIBへの参加を拒否する理由はない」と述べ、マスコミも「バスに乗り遅れるな」と囃し立てる。では、日本は米国を振りきってAIIBに参加表明するべきなのか。中国ウオッチャーの宮崎正弘氏が、AIIBに込められた中国の意図と、その将来的見通しを展望する。
宮崎氏は「日本は参加しないほうが賢明」とする理由として、以下の2点を挙げる。「AIIBが共産党の政治手段でしかない」「覇権の確立のためには中国は戦術的な微笑作戦をとるが、衣の下の鎧(金融の華夷秩序構造)が見えている」。要するに、AIIBの真の目的は、人民元の拡大、アジアにおける人民元の覇権、中国主導のアジア経済体制の確立という金融帝国主義にあるのだ。AIIBを通じての融資によって、アジア各国との国境を越えて新幹線、ハイウェイ、港湾の建設プロジェクトを推進することが主眼であり、米国のシンクタンクが「中国の鉄道プロジェクトは明らかに人民解放軍の軍事戦略のもとに発想されており、兵力、平坦、装備、戦車輸送などの基幹ルートである」とのレポートを出した通り、AIIBは「中国の、中国による、中国のための」銀行ということ。最終的には、日本主導のアジア開発銀行を牽制し、米国主導の世界銀行との均衡を取ることを大目的としている。
では、AIIBは中国の思惑通りに機能するのだろうか。英国の電撃的な参加表明がニュースとなったが、英国はそれなりのインテリジェンス戦略による政治的計算から動いていた。グローバル経済のルールを決めている英国シティにとって参加しないことにはAIIBの情報が得られず、同盟国である米国に情報提供できない。これにより華夷秩序ルールがシティルールに沿わざるを得なくなったわけだ。また、そもそも中国国内の経済、盟主となる中国に対する参加国の姿勢がガタガタすぎる(このあたりは本書に詳述されている)。
銀行の基盤とは「信用」である。その見えない価値観をいかにしてつくりだし、信用のネットワークを構築して銀行業務を拡大していけるのか。本書で浮き彫りにされる中国像に触れていくにつれ、「自己に克ち、国家に忠誠を、人生を有意義に、そして決して浮利を追うな」という訓戒が底辺に流れている日本人といかに相反しているかがわかる。日本はAIIBに参加しないほうがよい。そのほうが、日本の安全保障にも直結するうえ、安倍総理が推し進めている「地球儀を俯瞰する外交」の成功にもつながるからである。