中国崩壊後の世界

三橋貴明

中国内モンゴル自治区のオルドス市を訪れた三橋貴明氏。そこで三橋氏は思わず息を呑んでしまう。どこまでも続く広大な道路の両脇に林立する高層マンション群の圧倒的な威容ではなく、これほど開発が行き届いているのに住民をひとりも見かけない、しかも車も1台も走っていないことだった。1棟あたり500世帯は暮らせそうなマンションが何十とあり、10万人規模の人々が居住可能と思われるエリアでも、実際に住んでいるのは100人程度だという。こうした文字通りゴーストタウンのことを、中国語では「鬼城」と表現される。オルドス市はかつて石炭産業で栄えたことをきっかけに開発が進んだのだが、不動産バブルの崩壊、大気汚染をもたらしたことによる石炭火力発電バッシングで、オルドス市のマンション群は鬼城と化した。ここで三橋氏は、オルドス市の現状に目を付け、中国のGDP成長のからくりを喝破する。GDPは、マンションに誰も住まない場合であっても建設というサービスが生産されるだけで成長してしまう。鬼城が増え、環境が破壊され、犯罪が増え、戦争になるなど国民の豊かさが低下しても、数字上のGDP成長率は高まってしまうのだ。これこそ中国共産党が駆使するマジックのひとつだ。

中国の経済成長率について、統計が正しかったとしても絶対に注意が必要なことがある。それは、ほとんどの国は「対前期比」で発表しているが、中国は「対前年比」であること。たとえば、日本の実質GDP成長率が対前期比で1.7%だったとして、「中国は7%も成長しているのに、日本は1.7%しか成長していない」という主張は成立し得ないということ。中国は発表は対前年比なので、各四半期に分解すると、ほぼ日本と同じの1.7%になってしまう。日本のマスコミがこの手法を問題視することがほとんどないため、日本国内では中国はいまだ急成長を続けているとの錯覚が生まれることになる。そんな中、習近平が掲げる「反腐敗キャンペーン」が中国経済に波紋を広げている。具体的には、政府部門人員の国外出張費や公用車の購入・維持費、公務接待費を倹約節約するというもので、要するに賄賂を取り締まるということだ。これをGDPの支出面から見ると、企業家や投資家たちが官僚の接待をできなくなると、民間の消費という需要が減る。また、官僚たちが公用車を購入しなくなると、政府の消費が縮小し、経済成長率にマイナスの影響が生じるようになる。さらに、この反腐敗キャンペーンにより、官僚の不作為(サボタージュ)という別の問題を引き起こすこととなるなど目も当てられない。

2014年春から始まった不動産バブル崩壊により、2015年上半期の中国全土の不動産開発用地の供給面積は、対前年同期比で38%ものマイナスになっている。不動産業者が過剰な不動産在庫を抱える中、もはや新たなプロジェクトに手を染める余力はなく、開発用地が提供されなくなっていっている。こうなった以上、鉄鋼の供給過剰を国内で吸収することはできない。だからこそのアジアインフラ投資銀行(AIIB)だ。もはや中国には、AIIBのような国際投資銀行を強引に設立し、世界から資金を調達したうえで、アジア各地にインフラ投資を実施していく以外に、国内の鉄鋼等の供給過剰を消化する道がほとんど残されていないのだ。ほかにも、世界の多くの国々が抱いている「中国は永続的に成長する」という幻想が、いかに「幻想」そのものであるかを解き明かしていく。そもそも不動産、株式、設備投資という3つのバブルに支えられた中国経済の成長が長続きするはずがなく、結果として肝心の「個人消費中心の経済」への転換に失敗した。これが中国経済の実相である。


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