巨大地震〈メガクエイク〉Xデー

藤井 聡

3・11の東日本大震災は、2万人近くもの犠牲者を出し、数多くの街に巨大な被害をもたらした。同時に、私たち日本国民に、私たちが暮らしているこの日本列島には巨大な自然災害の危機がつねに潜んでいるという「現実」をまざまざと見せつけもした。その危機の中でも特に最大級と指摘されているのが「南海トラフ地震」と「首都直下地震」である。政府は2013年、南海トラフ地震について科学的な推計に基づき、東日本大震災の10倍を超える規模の被害が生ずる可能性を公表。一方の首都直下地震についても南海トラフ地震に勝るとも劣らない規模で発生すると予測している。これらが発生する時期については今後30年間で60~70%としており、その被害額は最悪で220兆円(国内総生産の42%)、死者は32万人にも及ぶという戦慄の数値を弾き出している。

いまや多くの科学者が日本列島は地震静寂期ではなく、大地震が集中的に発生する「地震活動期」の只中に突入していることを指摘している。だが、それはすでに専門家でない私たち一般人も肌で感得していることだ。こうした私たちの皮膚感覚は政治を動かし、2012年に誕生した安倍内閣のもとでM9クラスの巨大地震にも耐え得る国土づくりを目的とした国家的な取り組みが始まった。それが「国土強靭化計画」である。

国土を強靭化するということは、つまり日本が何が起こっても耐え忍ぶことができる高い「ショック耐性」を身につけると同時に、迅速に元通りになる「回復力」を身につけることでもある。なお、こうしたショック耐性や回復力は、当該の危機によって国土が致命傷を受けてしまえばそもそも根こそぎ失われてしまうものでもある。そのため、「致命傷を回避する」ことも枢要な条件となる。とは言っても、国土を強靭化していくのは何も国土交通省だけの仕事ではない。すなわち、巨大地震を想定した国家の危機管理のためには、経済、医療、食料、エネルギー、インフラ、消防、自衛隊、学校教育、情報通信、金融といった日本国内のありとあらゆる領域における協同なしには成り立たないのである。

以下、本書は政府が定めた「45の起こしてはならない最悪の事態」というリストの内容に沿って解説が進んでいき、その要項は大きく8つに分類されている。「国民の生命が失われる」「救助、救急ができない」「行政が停止する」「情報通信ができなくなる」「経済活動が停止する」「エネルギー供給、交通等が途絶える」「深刻な2次災害が起こる」「地域が再建できなくなる」の8つ。これらは政府や行政でないとなしえないこともあるが、個人レベルでも、津波が予想される地区での避難場所の共有や、隣近所の意思疎通、保存用食料の確保、一部マスコミの扇動に惑わされないなど、やれることはいくらでもある。裏を返せば、いくらインフラを強靭化したところで、人間の建造物が大自然の力には無力な面があることは否めない。国家が生き延びていくためには、国民一人ひとりの備えと心構えに拠っていることを思い知らされた。


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