防災立国–命を守る国づくり

三橋貴明

2011年3月11日に発生した東日本大地震、そして1950年代の高度経済成長期に建設された道路や橋梁などのインフラの老朽化が重大事故を引き起こす現実が、「国土強靱化」に対する国民意識を一気に加熱させるに至った。だが、その一方で、「バラマキだ!」「経済成長につながらない!」「土建屋を潤すだけで庶民には還元されない!」などと印象論・抽象論で公共事業を批判するマスコミ・識者は後を絶たない。経済評論家の三橋貴明氏がこうした亡国的論調を一刀両断するとともに、防災・減災がもたらす経済効果と国づくりにおける指針を開陳する。

4つの大陸プレートの真上に位置し、世界で発生するマグニチュード6以上の巨大地震の2割が集中している日本列島。先の東日本大地震と連動し、今後10年のうちに首都直下型地震や南海トラフ地震、あるいは富士山の噴火が起こる可能性が非常に高いと目されている。こうした国土で生活する我々日本人がしなければいけないことは、誰かに守ってもらうことではなく、「自らの手で防災力を高め自然災害に備えること」。そのため、当然のことながら、建築物の耐震力の強化、津波を防ぐための防潮堤の設置、または交通が寸断されたときのためのバックアップルートの確保などが必要となってくる。

これに対し「公共事業は悪である! 日本はますます借金まみれになって遅かれ早かれ破綻する!」と目を吊り上げる特定層が必ず出て来るであろうが、そうした連中には「いまはデフレだろ」とひとこと言ってやればいい。金利が低いいま(世界最低水準)、政府が積極的に財政出動をすることで国土インフラが強化され、そのうえお金回りも良くなりデフレが解消することに何のためらいがあるのだろうか。このあたりの論理は三橋氏の専売特許だ。

なお、本書では、国土強靱化の具体的な施策よりも、公共事業の意義・歴史・効果のほうにより紙面が割かれている(具体的な施策については藤井聡著「救国のレジリエンス」に詳しい)。特に、ニューディール政策で大恐慌を突破したもののその後の均衡財政への回帰で再び失業率を悪化させてしまった米国、そして90年代のバブル崩壊後も政府の財政出動で経済成長を保ってはいたが橋本政権期の緊縮財政により公共事業は大幅に削減され現在のデフレに至っているわが国の現状を知ることは大いに意義がある。

公共事業の拡大に関して、すべての国民を納得させることは不可能だろう。実体経済への波及時期、一般競争入札の弊害、行きすぎた談合批判、金融引き締めのタイミングなどが課題としてあげられるが、いまは議論に終始しているときではない。大規模自然災害は待ったなしでやって来るのである。


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