慶大医学部放射線科講師の近藤誠氏による、拝金主義の医者を見分け、手術や薬で寿命を縮めないための指南書。特に、がん治療に関して多くの稿を割いており、「すぐに切除手術や抗がん剤投与を勧めてくる医者は信用するな」などの持論を展開し、がんが見つかっても「放置」することの有用性を説く。
たとえ命取りの病に罹ったとしても、人間本来の治癒能力に任せ、自然に依った姿勢を心掛けていれば、苦しまず眠るようにポックリ逝けるということが氏の論旨。それゆえ、医者を神職のごとく崇める傾向のある我々日本人は、医者は病院の利益や製薬業界との癒着に執心しているものと疑ってかかり、医者の言うことを盲信してはならないと警告を飛ばす。その主張の根底にあるのは、「薬や手術では病気は治らない」という極論だ。
本文中の至る箇所に、医療がもたらす過信についての実例が掲載されている。そのひとつとしてフィンランドでの例を挙げると、検診により「健康そうだが心臓病になりやすい因子を持つ」1200人を抽出し、医者が健康指導のため介入する群と、まったく介入しない放置群のふたつに分けて15年間にわたる追跡調査をした。その結果、介入群の心臓死(心筋梗塞、心臓突然死)は放置群の倍以上も多く、自殺、事故、総死亡者数とも介入群のほうが多かったという。近藤氏は、その原因として診療のストレスや薬の副作用などを挙げる。
全編を通して、「医者が患者を殺す」「薬は病気を治さない」「がんはできたら放置する」「痛くなったらモルヒネ」などという主張がなされているが、実際に私自身が重い病に罹ったとして、こうしたことを実行できるのかはほとんど自信がない。幸いなことに、私はこれまで入院するような大病、大怪我をしたことはなくいのだが、いざそうなったときに「なにもしないでください」と果たして言えるのかどうか。病気(特にがん)に対する日々の心がけを得るという意味で大変興味深く読んだが、やはりいざというときには医者に頼り切ってしまうと思う。ただ、もちろんそのときのために、信頼できる病院、医者を見極めておくということだけは忘れないでいたい。