著者の小口日出彦氏は、パースペクティブ・メディア社の代表取締役として、情報分析と情報表現のコンサルティングを手がけている。その小口氏のもとに、2009年11月、自民党からとある依頼が届いた。同年8月の衆議院選挙で民主党に歴史的大敗を喫して野党に転落した自民党は、情報戦略の一環として小口氏に白羽の矢を立てたのだ。小口氏はさっそくプロジェクトチームを結成。テレビを365日24時間見て、報道番組、ドラマ、バラエティからCMまであらゆる放送内容をデータベースに記録しているエム・データ社。インターネット上のブログや掲示板の書き込みをすべて記録し、データベース化しているホット・リンク社。そして、各選挙区の各候補者ごとの得票割合が計算できる予測数理モデルを作成する東京大学。これら3者の協業により、テレビやネットの情報だけで選挙の当落予測をしてしまおうプロジェクトがスタートし、どんなキーワードが世論を左右しているのか国会での質問に対して世論がどう反応しているのかをアドバイスしながら、自民党政権奪回への道をともに歩むこととなった。
民主党が政権交代を果たした2009年の総選挙直前における、自民党と民主党のメディア戦略は圧倒的に民主党に軍配が上がっていた。理由としては、民主党は具体的なトピックを取り上げ必ず二元論で自民党を攻めていたことからメディア的に非常に絵になっていたこと。民主党は自民党が夜の時間帯にCMを流していたのに対し、昼間を中心に投入し主婦や高齢者に訴求していったことなどが挙げられる。この結果、民主党は話題換気指数(情報発信という行動を反映する値)で自民党の10倍となり、有権者に多大なインパクトを与え大勝を得ることができた。こうした事実を踏まえ、野党自民党は情報戦略をスタート。まず「テレビ報道の中で政治がどのように扱われているのか」「政治報道の中で自民党がどう扱われているのか」を分析することから船出した。
だが、民主党による事業仕分けの映像は、視聴者に圧倒的なインパクトを与え、そこに自民党が割って入る余地はなかった。その頃の自民党の露出度はほぼゼロに等しい。そうした中、ある意味民主党のやり口を踏襲し、「相手の悪名に寄りかかって、相手のダメな点を徹底的に追及する」戦略を採用する。これは、自民党が長年見下してきた戦法だったが、リスクを気にしていたら自民党はメディアの中で埋没して浮上することはできなくなるだとうと発想を転換しての決断だった。その後も、小口氏は2010年夏の参院選、2012年12月の衆院選、2013年7月の参院選を通し、自民党が復権し地盤を盤石なものとするまで奮闘。インターネット番組「カフェスタ」や、ツイッターライブ、安倍総裁のiPadによる情報共有などをサポートしていった。小口氏のスタンスは非常にシンプルだ。「一人ひとりが受発信する情報は小さなものであっても、その集積が自分の暮らしに跳ね返ってくる」。自分には関係がないという姿勢、何もしないという行動ですら、結果に影響する。情報過多の時代と言われるが、その情報を分析し適切に加工して発信することで、結果として勝ち組になれるということを学んだ一冊であった。