「中国」と聞いて、中華料理や万里の長城、紫禁城、三国志、パンダなど、歴史や文化に根ざしたものを連想するのは、一般的な日本人として極めて普通の反応であると思う(パンダはチベット原産ではあるが)。それはいい。だが、「中共(中国共産党)」としたらどうだろう。よくわからないとしながらも、天安門事件での大弾圧や尖閣諸島侵略を思い浮かべ、なにやら胡散臭いものをイメージする人が大半ではないだろうか。この「なんとなくヤバそう」という感覚が一般人にあるのはまだしも、国家の運営や防衛を任された政治家や自衛官に欠けているから問題なのだ。元中国人で「月刊中国」編集長の鳴霞氏が、アメリカをはじめとする世界各国が中共の諜報活動に蹂躙されている現実、そしてスパイ防止法のない日本が中共スパイのやりたい放題にされている現実を、緊迫感とリアリティーあふれる筆致で綴る。
鳴霞氏はまず、中国により日本国内におけるスパイ活動の“氷山の一角”と前書きした上で、ごく最近発覚した李春光事件を例に挙げる。これは駐日一等書記官であった李が当時の民主党政権に深く潜り込み、農産物の分野を中心に大々的なスパイ活動をしていた事件であるが、こうした国ひとつを揺るがす大事件であるにもかかわらず、スパイ防止法のない日本では外国人登録法違反という軽微な案件でしか書類送検できず、当然のことながら李は外交特権で帰国した。だが、中国人の悪事ばかりに目を吊り上げていると、この(これらの)事件の本質的な原因が見えなくなってくる。その原因とは、言うまでもなく、政治家の危機管理能力が著しく欠如していることだ。民主党員だったから中国人に甘かったなんていう話ではない。国政を預かっているという身上を忘れ、外国人の甘言にコロッとだまされてしまう政治家の亡国的な体質に問題があるのだ。
中共に限らないが、スパイがよく使う手段として「ハニートラップ」がある。要するに、ターゲットに美女を近寄らせ関係を持たせるというものであり、ベッドの上で国家機密を聞き出したり、情事の証拠を突きだし弱みを握ったりするという古典的手法だ。古典的とは言っても、これが実に有効であり、脇の甘い政治家や企業重役がよくひっかかる。このハニートラップのターゲットは必ずしも男性ということはなく、時には女性に対しても用いられる。安倍晋三現総理の夫人・昭恵氏がこれにかかり、ファンであった京劇俳優から特別なもてなしを受け、両者家族ぐるみで付き合う関係となった。その結果、中断していた対中ODAの再開を当時小泉政権下で官房長官だった安倍氏が推し進めたことは、この事例とまったく関係はないと断じる。
さらに、中共スパイの活動遍歴、スパイの隠れ蓑である孔子学院の実態、豪州・欧州・台湾など世界各国における中共スパイの暗躍が次から次へと暴かれる。元中国人である鳴霞をして嘆かしめ、また得心せしめる中共スパイの人間的側面として、王朝の興亡を繰り返してきた中国の歴史が醸成した「生き残るためには他人を騙さねばならない」という気質をあげる。簡単に言うと、敵も騙すが味方も騙す。つまり、敵国にスパイを送り込んで諜報活動をさせるが、莫大な報酬を約束しはすれど、その実、彼の家族を実質的に人質として監禁状態に置くのだ。成功しなければ故国の家族がどうなるかわからない。いったい、こんな人権無視の非人道的な国家がどこにあろうか。
私がもっとも恐ろしいと感じたのは「日籍華人」の存在。これはつまり、日本に帰化した中国人のことだが、実態は書類とはまったく異なる。彼らは日本人ではあるが、日本への愛国心や忠誠など一切持ち合わせていない。あるのは、ただ中共への盲従であり、日本人という書類上の立場を利用した日本国破壊にあるのだ。こうしたとんでもない奴らが子供を産み、その子供がまた日本人(しつこいようだが書類上の)として中共の利益のために心血を注ぐ反日闘士となるのだ。その数12万人と言われ、日本国籍を有するものとして当然の権利である投票権も有している。私が背筋を凍らせたのは、すでに国会議員(福山哲郎など)、または自衛隊にまで潜り込んでいるというのだ。
最近になって、コンビニやファストフード店で中国人アルバイトをよく見かけるようになった。偏見を抱くのは決してよくはないが、本書に記述された実態を知るにつけ、彼らももしかしてと思ってしまうのはごく自然な反応であろう。また、この評をサイトにアップロードしたのはファストフード店の無線LANを介してなのだが、もしこの店がファーウェイ(華為)のルーターを使っていたとしたら。アメリカをはじめとした各国で、ファーウェイの通信機器から機密情報を詐取されたのではないかと大問題になっている。まさかとは思いたいが、ひとりでも多くの人に本書を手にとってもらいたく、臆病になることをやめようと思う。