犯罪やテロ、麻薬などが絡んだ、いわゆる汚いカネを、海外にある複数の金融機関を通して隠匿するマネーロンダリング。本来捜査当局に追及されるべきカネがキレイさっぱり垢を落とす様相から「資金洗浄」とも言われ、金融詐欺や経済マフィアを取り扱った映画や小説などで耳にしたことはあると思う。本書は、マネーロンダリングが暴威を振るった卑近な事例から、歴史的経緯、国際政治との連動性、そしてその運用方法まで、とかく難解になりがちな金融理論をくり抜いた平易な文体で紹介している。
その要旨は、「違法な手段で得た収益を隠匿すること」。この“違法な”という状況が、テロや人身売買などの犯罪を企図したものか、それとも単に徴税を逃れるためなのか(これも立派な犯罪だが)は問題ではない。要するに、所有者はどうにかして、その黒いカネを当局の目の届かないところにおいておきたいわけだ。そのために利用されるのが、タックスヘイブン(租税回避地)、オフショアバンク(国外の銀行)、プライベートバンク(個人所有の銀行)といったもの。これらを舞台にしたマネロン犯罪は数え切れないほどあるが、中でも、クレディ・スイスのプライベートバンクを介した「酒販組合年金巨額損失事件」や「ライブドア事件」は絶好のマネロン教材に当たると言えよう。本書には、国内外のマネロン事件の事例がふんだんに盛り込まれているので、理論に押し潰されず具体的な映像を描きながら追っていけるであろう。
一読した感想として、やはり経済音痴の私には理解が及ばず飛ばし読みで済ませてしまう箇所が多々あった。それゆえ、実際に経理に携わっていたり株や投信を運用したりしている人には、ポンと手を打ってしまうほど得心が行く内容ではないだろうか。これを読んで脱税の真似事をしてみようだとか(そもそも私の納税額はたいしたことがない)、世界経済を手玉に取ってみようだとか大それた事をしでかすつもりはさらさらないが、こうした世界の裏事情を知ることは有益であるに違いない。世界で大きな事件が起きるたび、その裏側で巨額のマネーが不可解な動きをしていることを推測することは、これからどんどん変動していくであろう国際政治情勢に溺れないための必須条件であると信じるからだ。