目覚めよ! 日本経済と国防の教科書

三橋貴明

長きにわたるデフレからの脱却、そして中国をはじめとする周辺諸国に対する安全保障を万全なものとするには、いまこそ防衛費を増額し「国防」に当たらねばならない。経済評論家の三橋貴明氏が、いまだ恒久平和を信じてやまない日本国民や、お花畑思考で危機感皆無の政治家・マスコミを目覚めさせるべく、国民意識と国防に関する現在進行形のナレッジをマクロ経済の視点から語る。

デフレ不況で国内の景気が冷え込み、家計は消費を抑え、企業は設備投資を控えるようになってしまった。こうした状況が15年近く続きながら、政府は公共事業縮小やグローバル化推進などというデフレ促進策を打つことに邁進し、有効な経済効果につながることはなかった。そんな中、中国による尖閣諸島略奪騒動が巻き起こり、これまで「平和を愛する諸国民」が日本領土を略取することなど考えもしなかった日本国民の意識を一変させる。その後、東日本大震災が発生。民主党政権による人災も重なり東北地方は壊滅的な被害を受けいまも復興は成し遂げられていない。

このような、国内外から文字どおり日本を揺るがし続けている危機に対し、我々日本国民はどう対処するべきか。具体的には、地元選出の政治家に働きかけ、万全で強靱な危機管理体制を築いていかなければならない。それに関する最も有効な手段が、「防衛費増額」による自衛のための安全保障確立であると三橋氏は説く。

民間が投資・消費をしなくなった社会において、いったい誰が支出を増やしてバランスを取らねばならないのか。それは言うまでもなく国(政府)である。民間主導でデフレ脱却はなし得ず、金融緩和や財政出動などを通して、市中の経済を活性化させるきっかけをつくってやる必要がある。そんなことをすると、ハイパーインフレになる、政府が破産するなどと煽る向きが必ず出てくるが、インフレターゲットが設定され、国債はほぼ円建てでしかも史上類を見ない超低金利である。このあたりのデフレ脱却策は第1章で詳細に語られている。

防衛費の増額により、自衛隊や付随する関連企業の雇用が増えて設備投資や消費が拡大し、それに伴って周辺の人たちの所得が連鎖的に増えていく。それはいい。ただ、防衛費を増額したところですぐに安全保障の効果が出るわけでは当然ない。戦後日本は艦船や戦闘機の製造ノウハウを喪失させられてしまい、武器輸出三原則やポジティブリストによる足枷をはめられ、さらには外国人が入り込んでいる(と思われる)NHKをはじめとするマスコミは今日も国民を洗脳し続けている。中国、ロシア、韓国、北朝鮮という非友好的で好戦的な隣国に囲まれている以上、いますぐは無理でも、少しずつでも防衛力を高めていかねばならないにもかかわらず、日本は愚かにも防衛費を削減し続けてきたのだ(第二次安倍政権でようやく微増)。

もし尖閣諸島に有事が発生した場合、アメリカは安保条約の適用範囲であるとは言った。だが、本当だろうか。アメリカは、この東シナ海に浮かぶ小島を防衛するために、わざわざ自国民の生命を賭けてまで駆けつけてくれるだろうか。ロサンゼルスやサンフランシスコを核の脅威にさらしてまで、同盟国の盾になってくれるというのだろうか。答えは自ずと明らかではないだろうか。戦争を防ぐため、平和を維持するためには、軍事的なバランスが必要なのである。いま日本がしなければならないことは、経済を抜きにしても自国の防衛力を高め、他国に頼りきることをやめることなのだ。

本書を通して、経済的な意義について多く稿が割かれ、軍事的な展開シナリオ、地政学的な分析、兵器・武器を用いたシミュレーションなど、国防に即した解説は薄かったと言わざるを得ない。そこは専門家ではない三橋氏に多くを求めすぎということだろう。だが、最終章で取り上げられている「軍事の民営化」、ここに氏の主張が集約されている。多くの民間軍事サービス会社がイラク戦争に人員を派遣し後方支援に回ったという例であるが、これを単なる戦争の一形態と見るのではなく、すでに戦争にまで新古典派経済学(グローバリズム)が浸透しているとことに注目したい。人員は必ずしも戦争当事国の国民ではなく、フィリピンやネパールからも掻き集められていたという。こうした状況で、自国を守り抜くという崇高な愛国心が醸成されるであろうか。我々はこのことを思料せねばならない。


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