経済は世界史から学べ!

茂木 誠

「歴史から経済の成り立ちを学ぶ」というスタンスで、「お金」「貿易」「金融」「財政」といった各分野へのアプローチを試みる。「お金」の章では、信用が通貨の価値を決める、中央銀行が設立された理由、アジア通貨危機の真相、ユーロの自己矛盾などを歴史的経緯を基に解説しながら、日本の通貨制度の変遷や戦後の円ドルレートについても言及する。このあたりは、別に世界史をクローズアップせずとも経済の入門書なら全般的に記述されていることであるので、目新しく感じた箇所は特になかった。

具体的な世界史的事例を絡ませて説明が進んでいくのは「貿易」の章以降。ナポレオンはフランス革命の輸出という理想を掲げてヨーロッパ全土を占領するが、その背景には安価なイギリス製品の流入を阻止し、フランス製品の市場を確保するという経済的な目的もあった。大陸封鎖令でイギリスを締め出すのが、これによりイギリスへの輸出が制限されたロシアやポルトガルなどの国が同盟を組み、ナポレオンは駆逐されることとなった。保護貿易が自由貿易(グローバリズム)に打倒されたわけだ。この保護貿易と自由貿易のせめぎ合いにより、ドイツ関税同盟が成立しドイツ統一へとつながり、アメリカの南北戦争ではイギリスへの綿花輸出拡大を訴える南部が北部に打ち負かされ保護貿易に転じるなどした。また、極端な保護主義、つまり帝国主義が二度にわたる世界大戦を招いたという事実も忘れてはいけない。

ほかにも、ユダヤ人やテンプル騎士団、東インド会社などにより発展した「金融」、古代エジプトのピラミッド事業は失業対策、治安対策としての公共事業だったという例を引いて解説される「財政」について記述。経済を歴史的な視野で俯瞰するだけでなく、アベノミクスや消費増税などの問題点などタイムリーなトピックも盛り込まれており、過去と現在を絡めませて経済を理解できる構成になっている。なお、本書は、経済や世界史の前知識を前提としていない点で優れているが、人によっては内容的に物足りなく感じるかもしれない。あくまでも「経済を歴史の流れで解説する教養書」であることを認識した上で手に取ったほうがいいだろう。


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