「金融に関する知識ゼロの主婦が、家事の片手間に始めた株やFXで大儲け。さぁ、あなたも億万長者目指して投資しよう!」。なんていう夢物語のような謳い文句を表紙に堂々と掲げた株指南本が書店を賑わしている。ひと昔であれば、株とか投資信託のたぐいは、限られた金融通のみが証券会社に入り浸って繰り広げるマネーゲームか、札束で尻を拭くような気まぐれ金満家らによる高尚なギャンブルでしかなかった。だが、いまは手数料もかなり安くなり、またネットで気軽に売買することができるようになったため、にわかトレーダーが激増し、27歳無職が一夜にして何億円もの金持ちになったりした(ジェイコム事件)。そうした背景のもと、「目指せ! 成金主婦」の掛け声が高まっているのだが、それでは素朴な疑問をひとつ。じゃあ、成金主婦を指導した人(本の編集者)は当然儲かってるんですよね。いや、そんなことはない。
株式投資とはギャンブルであり、運用のプロなどいない。著者の橘玲氏はそう言い放つ。それはどうだろう。もし百戦錬磨のプロがいるとしたら、証券マンや金融アナリストと呼ばれる人たちは、誰もがビル・ゲイツやアラブの石油王のような億万長者になっているはずだし、そもそも他人の資産を増やすために自ら編み出した秘中の秘策を、わざわざ主婦でもわかるように懇切丁寧に伝授することなどしないだろう。では、株式投資とは何かというと、表か裏かのコイン投げのことであり、投資家というのは儲かるか儲からないかのゼロサムゲームを永遠に繰り返している人たちのことである。もちろん、ウォーレン・バフェットのように徹底した資産管理・運用で「投資の神様」と呼ばれる人もいるが、基本的に投資家は皆、金融知識ゼロの主婦とまったく同じ土俵に立っているわけだ。
それでも、老後のため、年金では心細いのでいまのうちから資産運用をしておこう、でも損をするのは嫌だという贅沢な人には、国債で運用するとか、安全なポートフォリオを組むという手もある。だが、所詮ローリスクであるがゆえにリターンは少ない。それでは物足りないと言っても、一夜にして一文無しになるリスクが怖いのであればそれで満足すべきだ。いや、それでも俺は、という人のために株式市場で富を創造するアドバイスだけはしておこう。それは「株式市場は概ね効率的であるがわずかな歪みが生じている」「資本主義は自己増殖のシステムなので長期的には市場は拡大し株価は上昇する」ということ。要するに、抜け穴を見つけるか、それとも長期投資に徹するかである。しかし、いちばん肝に銘じておかなければならないのが「うまい儲け話はない」ということであり、成金主婦気取りで下手に首を突っ込むのが最もたちが悪いということなのだ。