インテリジェンス: 国家・組織は情報をいかに扱うべきか

小谷 賢

身の回りに散らばっている生の情報である「インフォメーション」に対し、使うために何らかの判断や評価が加えられた情報と定義される「インテリジェンス」。本書は、国家が国益を追求する際の指針となるべき行動規範(=インテリジェンス)について系統立って詳述した概説書である。

インテリジェンスを扱う部署のことは単に情報機関と言い表されることが多いが、その役割は「007」などのスパイ映画で描かれるような華やかで格好のいいものでは決してない。気が遠くなるほど大量の文書・画像などの分析のほかに、行政機関内のクライアントとの歯痒いやり取り(情報の政治化)、同国内の類似機関との確執といったハードルも待ち受けている。他方、秘密工作・ハニートラップ・暗殺・政治工作など命を懸けた任務も付きまとう。

こうしたインテリジェンスの現実の背景には、長い歴史に裏づけられた伝統的なノウハウのほか、情報の管理・保全・防諜体制、そして十全な法整備の下に成り立っていることはいうまでもない。この点、“スパイ天国”と揶揄されて久しい日本が他国に比べて完全に後れを取っていることも自明の理だ。

詳細かつ簡潔な筆致で記述されているため初歩的なインテリジェンスを学ぶには格好の一冊と言える。だが、それゆえ大学のテキストのような硬質な文体が続くため、人によっては読み進めていくにつれ倦怠感が募ってくることもあるかもしれない。だが、安倍政権において昨今、高まってきている日本版NSC創設の動きを意識しながら読んでいくと、なぜいま日本でインテリジェンスが重要視されつつあるのかがわかってくるに違いない。


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