「第5の戦場」 サイバー戦の脅威

伊東 寛

コンピュータとインターネット技術を中心とする、いわゆるサイバー技術を利用するようになって、私たちの生活はとても便利になった。だが、電気や通信、交通といった重要な社会インフラがネットワーク化されるにつれ複雑化、多様化し、次第に脆弱性を露呈するに至った。その国に大きなダメージを与えようと思ったら、そこを狙えばいいからだ。実際、テロリストや多くの国の軍隊はそのように考え準備を進めている。そんな中、2011年7月、アメリカ国防総省は、サイバー空間を陸・海・空・宇宙空間に次ぐ「第5の戦場」と宣言し、サイバー攻撃に対して武力をもって反撃することを明言した。すでに「見えない戦争」であるサイバー戦が世界中で起きているという事実を踏まえてのことであり、反撃はミサイルで敵の拠点を叩くなど通常戦力を使った武力による報復も辞さないとしている。

パソコンが一般に出始めた頃のハッキング行為といえば、自身の能力を誇示するためだけのイタズラ的なものにすぎなかったが、いまは違う。ウイルス対策やIDパスワードの自己管理意識が皆無な高齢者や主婦もこぞってインターネットをやる時代だ。知らないうちにパソコンがマルウェアに侵され、犯罪行為の跳梁となってしまっていることなど考えたこともないわけで、ハッカーはそうした脆弱性を巧みに突いてくる。実際にそうした“布陣”を整えた上で、国家が国家を攻撃する事例も発生している。東欧の小国エストニアが大規模なサイバー攻撃を受け、国内の銀行業務や行政サービスなどが壊滅的ダメージを受けたという事件がそれだ。その背景には、エストニア国内で強まっていたロシア系住民に対する反発があり、ロシア人が同胞意識をもとにエストニアにサイバー攻撃を加えたのだ。ロシアは国家としての関与を否定したが、攻撃のタイミングなどから手を加えていたと考えて間違いない。

怖ろしいことに、こうした新しい戦争には、軍人ではない一般人が自宅に居ながらにして自らの意志で戦争に参加できてしまう。これからの戦争では、サイバー技術に長けた愛国者によるサイバー空間限定の“志願兵”とも銃火を交えることになるということだ。では、もし日本がどこかの紛争に巻き込まれたとして、敵方からサイバー攻撃の脅威にさらされるとしたら、いったい自衛隊はどの程度まで防衛できるのだろうか。ただでさえ攻撃側が圧倒的有利の立場にある非対称な戦いにおいてだ。現状の日本国憲法では、武力攻撃にサイバー攻撃は含まれておらず防衛出動は発令されない。今年になってサイバー防衛隊なるものを発足させたが約90人体制という小規模なもので、どこまで世界的なサイバー攻撃に対処できるのか疑問が残る。このままで日本は大丈夫なのだろうか。目に見えない戦争とは、相手側が気づいた頃にはすべてを破壊し終わっていることを目的としているのだから。


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