インテリジェンスのない国家は亡びる―国家中央情報局を設置せよ!

佐々淳行

2013年1月に起きたアルジェリア人質事件で、イスラム武装勢力が天然ガス精製プラントを襲撃し、現地で開発に携わっていた日揮の日本人スタッフが犠牲になったニュースは記憶に新しいだろう。外遊先のベトナムで第一報に接した安倍総理は「テロリストを許さない、人質を取るような無法には屈しない」という談話を発表し英国などとの連携を構築したが、その実、日本政府は現地で何が起こっているのかの情報をリアルタイムで得る術を持っていなかった。アルジェリア政府が英米の支援要請を蹴って独力で軍を動かしたという情報は、英国政府からもたらされたものだったのだ。その結果、人質となった日本人17人のうち10人が犠牲になるのだが、日本は海外メディアからの情報に頼るしかなく、外務省をはじめ各省庁には一次情報を収集する態勢が整っていないことが改めて露呈した。これにより、安倍総理は国家安全保障会議(日本版NSC)の早期創設へと大きく舵を切ることとなる。

しかし、ただテロや組織犯罪の専門家を集めればいいという話ではない。重要なのは「インテリジェンス」という価値観を持つこと。ではインテリジェンスとは何かというと、非合法な工作をしたり言論統制をしたりするものではなく、現在あるいは将来において何かが必要なのかを把握し、そのための課題を設定して企画を立案、情報を収集・分析したもののことだ。つまり、不特定多数の人たちが入手できる膨大な情報(インフォメーション)を、国益の追求に資するべく選別・加工したもののことである。したがって、いま日本に必要なのは、意思決定のための情報収集と分析のプロフェッショナルを集めた機関、内閣直轄の強力なインテリジェンス機関なのだ。

そのために、著者の佐々淳行氏は「国家中央情報局」の創設を提唱する。現在日本には内閣情報調査室をはじめ、警察庁警備局、防衛省情報本部、公安調査庁など情報を扱う組織はあるにはあるが、基本的に国内向けであって海外で発生する緊急事態は想定されていないのが現状。そのため、海外にいる日本人を守れないというのが現実だ。国家中央情報局にはインテリジェンス機関としての任務に加え、海外で有事が発生した場合に在留邦人を救出するためのエバキュエーション・プランを策定することも重要な任務となる。さらに、佐々氏は国家中央情報局は日本版CIAではなく日本版KGBたれと檄を飛ばす。かつてのKGBがその紋章を「剣と盾」にしたように、諜報活動という積極的ヒューミント(人間による情報収集)という「剣」、そしてスパイ防止法や秘密保護法といった「盾」の機能が伴って初めて世界標準のインテリジェンス機関たりうる。いかに情報収集能力を高めたところで、スパイ大国と揶揄されたり政治家や官僚が重要機密をマスコミにこぼしたりするようでは、いつまでたっても国家として自立することなどできないのだ。


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