田母神俊雄氏の主張はすべて本書のタイトルに集約されている。つまり、何でもアメリカの言う通りにしていればいいとの信仰心は捨て、「自分の国は自分で守る」という当たり前の感覚を取り戻そうということだ。だが、永田町の現状は、アメリカや中国の顔色をうかがう政治家ばかりで、自主防衛を前提とした国家のあり方、ひいては国益が疎かにされている。田母神氏は「日本派の政治家よ、識者よ、出でよ!」と叫ぶ。
たしかに、日米安保条約の規定で有事の際はアメリカが日本を守ってくれることにはなっているが、果たして条文通り機能するものなのだろうか。田母神氏は、軍事力をバックに相手国を納得させ富や資源を分捕るという外交の鉄則を引き合いに出し、アメリカにとって日米安保条約は日本に対する分断統治の手段でしかないと言明。要するに、日本が周辺国と結託してアメリカに歯向かってこないための懐柔策として名目上の保護者を名乗っているにすぎない。中国が尖閣侵略を企てたり、韓国がアメリカに慰安婦像を建てたり、北朝鮮が核ミサイルを発射すると吠えてみたり、周辺国との間に諍いが起こるたびに、アメリカは日米安保は健在だなどとポージングする。日本はその背後にいるアメリカの存在に気づかないまま、完全に情報戦に乗せられてしまっていると嘆く。
この結果、日本は構造改革や規制緩和でアメリカの思うままにしてやられたわけだが、情報戦は何もアメリカだけが仕掛けてくるものではない。そこで、日本も情報戦を戦うための体制をつくる必要があると強調する。まず、情報戦における要諦である収集、防諜、宣伝、謀略について語った後、中国人学者失踪事件に仕掛けられた罠、大量の中国人留学生への警戒、韓流ドラマによるメディア洗脳、特定秘密保護法の意義などについて解説。その上で、日本版NSCの下部組織として強力な情報機関、つまり日本版CIAの創設を訴える。
ほか、装備品開発や武器輸出三原則の問題、領土防衛、核武装など、自衛隊出身の田母神氏らしい軍事的視点からの日本自立論が目立つ。その中でも、自衛隊の交戦規定についてのくだりには注目したい。集団的自衛権は憲法改正を待つことなく解釈の変更により行使可能だが、問題は個別的自衛権だ。現状では総理大臣が防衛出動を発すれば行使できるのだが、その前に原則として国会の承認を得なければならない。そうこうしているうちに、海上自衛艦が傍観している中で、日本の商船は敵国艦艇に略奪されていくのだ。そのためにも早急に憲法を改正して自衛隊を「軍」とし、暫定的な根拠法ではなく、世界の軍と同じように国際法で動けるようにしなければならない。
本書における田母神氏の主張は正論だ。だが正論ゆえに、機が熟さぬまま事を急ぎすぎると強烈な反発に遭い、日本自立の道は頓挫して元の木阿弥となってしまうことだろう。それはもちろん田母神氏自身が一番よくわかっていることと思う。したがって、まず意識すべきなのは、領海を侵犯されたら撃沈する、領空を侵されたら撃ち落とす、領土に土足で入ってきたら即座に追っ払う。つまり「1発でも撃ってみろ、10倍返しにしてやる!」という気概である。これは軍事に限らず、一般人にも浸透しつつある情報戦についても言えることだ。新党立ち上げを表明した田母神氏の今後に期待したい。