強い経済が強い日本をつくる

田母神俊雄、三橋貴明

「防衛費を増額すると平和憲法の理念に反し、また近隣諸国からの反発を招く」「日本は莫大な財政問題を抱えているから防衛費はむしろ減らしていくべきだ」など、現在の日本では経済と安全保障の密接な関係をまったく無視した亡国的な言説がまかり通っている。そんな中、中国からの横暴な軍事的挑発行為を継続的に受け、また領土防衛をアメリカに依存しきっている現状を考えれば、「日本を取り戻す」ための第一歩は「富国強兵」への道筋を示すことであることは当然であろう。強い経済力があってこそ強い軍事力(外交交渉力といってもいい)が成り立ち、この順序は入れ替えれども、その一方のみ実現することは不可能だ。元航空幕僚長の田母神俊雄氏と経済評論家の三橋貴明氏が、軍事・経済面から日本復活に向けた熱論をぶつけ合う。

本書では、日本を取り巻く厳しい国際情勢を俯瞰しつつ、日本が取るべき国防への施策と意識について語られているのだが、その中で両氏が強く訴えかけているのが日本の防衛産業が抱える問題だ。日本が装備品や戦闘機、艦船を独自開発しようとするとアメリカからの横槍が入る現状もさることながら、平和的だと頑なに信じる武器輸出三原則こそが目の上のたんこぶだと喝破。日本が開発した装備品が国内だけしか流通できないとなると販路が限定され価格が下がらないだけでなく、輸出した相手国に対してイニシアティブを握れなくなるという事態が発生する。どういうことかというと、装備品や兵器はメンテナンスのたびに輸入国から技術スタッフや部品を取り寄せなければならず、何かあったら供給側は「それをやめるぞ」と言えるのである。これは恫喝ではなく国政政治で一般的に行われている駆け引きだ。日本は装備品を輸出できず、さらにアメリカに一方的に供給を依存しているため不平等な立場に置かれており、実際アメリカの軍事産業が金儲けするための“お得意様”とかしているのだ(しかもGPSなどの制御機能はアメリカに握られている)。

このほか、いわゆる談合と叩かれがちな指名競争入札や随意契約をなくし一般競争入札(国内外の新規参入が可能)へと移行しつつある問題、これにより国内の防衛産業が自国の安全保障を担うための装備品の開発に向けた情熱と改善意欲を失いつつある問題、中国の急激な軍事的台頭によりますますアメリカ依存になりつつある現状などを交えながら、いまこそ日本が持つ防衛能力の限界を悟らねば国土防衛が危うい両氏は気炎を上げる。田母神氏の核武装論や三橋氏のデフレ脱却論などの持論も織り交ぜつつ、とにかく両氏が最も強く訴えているのが、「日本が軍拡をすると侵略国家になるという左翼的な偏見を捨てよう」ということ。世界には、自国が自国を守らない国など存在せず、第三国が自国を守ってくれるなどという空想を抱いている国もまた存在しないのである。

本書では憲法改正や国防軍創設については言及していないが、つい先日、国家安全保障会議(日本版NSC)を設置するための関連法案が成立したことにより、ようやく本書が目指す将来の理想的な日本像に近づく第一歩を示せた感がある。とはいっても、まだ完全にデフレを収束させたわけでもないし、防衛費もほんの数百億円増額できただけだ。日本が自立するための道のりはいまだ遠しといったところだが、それを阻もうとする強大な力の存在についても本書を通じて感得してもらいたいと思う。


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