大間違いの太平洋戦争

倉山 満

著者の倉山満氏が冒頭で語っているように、本書は太平洋戦争という呼称の誤りこそ指摘するが、そのものを論じてはいない。満洲事変から大東亜戦争(俗に言う太平洋戦争)に至る史観でよくありがちな「欧米の持てる国々に取り囲まれた日本は軍部の暴走によって日中戦争の泥沼に引きずり込まれ、弱いにもかかわらず無謀にも強国アメリカに戦争を仕掛けて自滅した」という認識は大間違いであると指摘するものである。そもそも日本の帝国陸海軍はアメリカ、イギリス、ソ連の強大国より劣る軍隊ではなかったし、資源に乏しいといえども加工技術では他を圧倒していたため「持たざる国」でもなかった。それに、「弱い日本が強いアメリカに挑んだ」という捉え方をすると、日本がなぜ敗戦国になってしまったのかが見えなくなってくる。倉山氏は、日本の戦前・戦中の帰趨は日英関係にこそあったと喝破し、イギリスを羅針盤に据えながら、なぜ日本は道を誤ったのかを探る。

以下、日本が日清・日露の戦争で勝利して列強の仲間入りを果たしてから、満洲事変、国際連盟脱退、日華事変を経て、大東亜戦争に至るまでの経緯を、外交・政治・世界情勢を詳細に見つめ直しながら分析していく。その際、キーワードとなるのが前述した「イギリス」。戦前日本の誤りは、日英同盟を切り、ソ連の謀略にはまったことに始まり、ソ連の主導する国際共産主義の危険性を十二分に認識していながら英米と事を構えた。このイギリスとの関係悪化こそが絶望的な展開と末路をたどる起因となったのであり、対米関係を軸とする「太平洋戦争」などより先に日英関係と日英戦争を検証し反省すべきであると結ぶ。私の勉強不足のゆえあってか、日本政治史のパートなどはやや読みづらさを感じ倉山氏の意図するところを完全には読み取れなかった悔恨はあるが、大東亜戦争を対米一本軸でなく日英戦争として着目した点は大変興味深かった。歴史の真相とは教科書では学べないという認識を新たにするとともに、私自身もっと歴史を勉強せねばならないという自省を促す良い読書体験となった。


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