嘘だらけの日仏近現代史

倉山 満

「フランス」と聞けば、誰でもその文化、歴史、風俗に優雅なイメージを思い浮かべるところだが、本書の著者倉山満氏によればまったくの皮相的な思い込みにすぎないという。曰く、フランスの三法則「根性、孤高、勝利」。フランスは戦争で何度も負けており、つねに苦しい戦いを強いられているが、そのたびに根性で乗り越えている。また、フランス人は社交性があるようでいて、そもそも他人に興味がないため、生き残るために外交能力を高めこそすれど、他人にどう思われるかなど気にしない。ナポレオン1世、ジャンヌ・ダルク、マリー・アントワネットなど、歴史の舞台に華々しく登場し、少しでも世界史をかじったことがあれば誰もが記憶するであろう人物たちのおかげで、いまのフランスのイメージが固着したわけだが、実は非常に泥臭く苦闘の末最後に勝利をつかむ、必ずしも優雅とは言えない国だった。やたらと根性があって孤独に強くていつの間にか勝ち組にいる。本書を通して、もう一度フランスという国の歴史を学び直したい。

国の成り立ちから歴史を追い、節目節目で学校で習った通説と実際を照らし合わせるスタイルは、嘘だらけシリーズの定番。本書もその例に漏れず、フランク王国が成立したあたりから近現代にかけてをなぞっていく。その中で、やはりフランス史、いや世界史に非常に大きなインパクトを残したのはフランス革命だろう。フランス革命は、国王の圧政を人民が革命によって打倒し、「自由、平等、博愛」の民主的で人権が保障された共和制フランスを打ち立てたというのが通説だ。このうち、「博愛」は誤訳で「友愛」が正しい訳だという。博愛が全人類を対象としているのに対し、友愛は仲間への愛。組織愛と言い換えてもいい。それゆえ、フランス革命では裏切り者への粛清が絶えず、外敵との戦争は防衛戦争どころか侵略戦争に転化していく。また、革命を主導したロベスピエールは独裁的な権力を掌握し、政敵を次々とギロチン送りとし、さらに「革命に必要なのは徳と恐怖だ」と言い切り恐怖政治を断行した。フランス革命はとかく美辞麗句が先行するが、その後のフランス史においてこの動乱は長く尾を引くのだ。

ウィーン体制を経てヨーロッパの勢力図は混沌を極めていくが、フランスはフランスだった。当時イギリスを除けばヨーロッパ唯一の共和国だったフランスは、世界最大の専制君主国のロシアと手を組む。フランスの行動原理はイデオロギーではなく地政学なのだ。そんな倉山視点でのフランス史における主人公は、マザラン、タレイラン、ド・ゴール。この3人の人物像をなぞることでフランスという国を改めて俯瞰すると同時に、耳聞きの上辺だけの知識で世界史を理解した気になることが早とちりであるとわかるというものだろう。ますます筆致が冴える嘘だらけシリーズ。次回作が楽しみだ。


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