日本一やさしい天皇の講座

倉山 満

なぜ天皇は必要なのか、なぜ皇室は一度も途切れることなく続いてきたのか、そもそも天皇とはそして皇室とはなんなのか。著者の倉山満氏は、この疑問に答えを出そうと熟思してきたが、とある出来事がきっかけで本書を執筆しようと思い当たったという。そのきっかけとは、平成28年8月8日の、いわゆる「生前退位に関するビデオメッセージ」だった。「生前退位」という聞きなれない言葉であるにも関わらず、戦後70年にわたり自虐的な歴史観を植え付けられてきた私たち国民の圧倒的多数が、陛下のおっしゃることだから間違いないだろうと支持した。皇室に悪意を抱く人たちにとって脅威に他ならないこの事実から垣間見えることは、骨抜きにされたはずの日本国民がいまでも「天皇陛下ならびに皇室は尊いもの」と思いを何となくではあるが残しているからではないだろうか。その理屈では説明の付かない「何となく」を、歴史的事実から紐解こうとしたのが本作での試み。倉山氏は、天皇は祈る存在だから尊い、三種の神器(欠品があるが)を持っているから尊い、というような極論とは一線を画す皇室論を歴史と現実を基に解き明かす。

陛下のビデオメッセージで日本国内で何かが動き出している。いまのところ最後に行われた譲位は江戸時代の光格天皇だから、予定通り平成の御代で譲位が行われれば、200年ぶりの大事件となる。だからこそ、私たちはこの問題を理解するうえで、まず必要な歴史的事実から学習していかなければならない。世界史上で帝国が興亡を繰り返す中、たった一国だけ独立を保ち続けている国がある。日本だ。日本は公称2677年、少なくとも1400年の歴史(大和朝廷あたりの絶対に歴史として確認できる時代から)を数え、この数字はいまの地球上に存在する国のなかで最古であり世界最長不倒の記録である。そうした我が国日本の国柄である皇室に関して論じる際の大原則が、「新儀は不吉。だから先例を探す」だ。最近のもっとも不幸な新儀は昭和20年8月15日の玉音放送だろう。昭和天皇が放送を通じて国民に直接語りかけられたことは史上初の出来事であり、先例のないことだった。この文脈において、「生前退位」あるいは「女系天皇」というキーワードを考えると、いかに重い意味を持ってくるかがわかる。

本書は、武家や幕府との関わりをはじめ、近現代にいたるまでの皇室、そして歴代天皇の歴史を洗っていき、いかに日本社会と皇室が「新儀」と「先例」にならってきたかを紹介していく。この間、強力な武家集団が一度も皇室を乗っ取ろうとしなかったのは、皇室の「人に言うことを聞かせる権威」が強すぎ、足利義満以外、すべての権力者はことごとく自重したからだ。なにしろ、無理やり天皇になったところで政権が安定しないのだから。第2次世界大戦の結果日本を占領したアメリカでさえ、皇室を廃止することはできなかった。最後に、倉山氏は法律と絡めつつ、譲位、女系天皇、女性宮家、側室の是非などを論じていく中、「なぜ天皇は必要なのか」という問いに答える。それは、ずばり日本人が必要としているからだ。単なる感情論や愛国思想では説明の付かない、世界最長を誇る歴史において営まれてきた我が国の国柄。今回の譲位が終着点ではなく出発点となるよう、思いを致したい。


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