「黄金の拘束衣」とは、グローバル化された世界で「国境を越える資本」の影響力が強まる中、次第に政府にはめられていく「枷」「鎖」のこと。その拘束衣を着た首相とは誰かというと、言うまでもなく安倍晋三首相のことだ。2014年11月17日、内閣府が14年7-9月期のGDP成長率の速報値を発表した。政府は、4-6月期の実質GDPが確報値でマイナス7.1%(年率換算)成長に終わったことを受け、「景気の落ち込みは消費税増税の駆け込み消費の反動が出たに過ぎない。7-9月期はV字回復する」と訴えていたのだが、7-9月期は実質GDPが対前期比マイナス1.6%、名目GDPはマイナス3.0%(ともに年率換算)という結果となった。実質GDPの下落率を名目GDPのそれが下回っている。つまり、日本は再びデフレ化の道をたどっているということを意味する。1997年の消費税増税の時は、曲がりなりにも実質賃金が増え続けており家計貯蓄率も10%近い「余裕のある」タイミングで行われた。だが今回は、国民が貧困化し余裕を失ってしまった段階で増税をしてしまったのだ。
安倍政権は、戦後「最も消費を減らした政権」という不名誉な座に就く可能性が高い。というのも、2014年4-6月期の民間最終消費支出は対前期比でマイナス5%だった。この5%という民間の消費の落ち込みは、統計的に比較可能な94年以降で最大。94年以前にしても、ここまで凄まじい消費縮小は確認できていないという。なぜこのような事態となってしまったのか。それは、安倍首相による「デフレは貨幣現象」発言、「TPP交渉参加」表明、「消費税増税判断」を経て、デフレ脱却の気運が一気に冷めてしまったことによる。つまり、デフレの危機が迫る、あるいはデフレの渦中においてさえ「デフレ促進策」を取る。もっと具体的に言うと、国民を貧困化に追い込み、国内の所得格差を拡大し、社会を不安定化させる方向へと舵を切ったのが安倍政権なのだ。デフレとは、国民を貧しくするのみならず、安全保障を弱体化させ、さらに「国家の発展途上国化」を推進する経済現象だ。このように、「黄金の拘束衣」を着てしまい経済のグローバル化を推し進めている安部首相だが、これは何も日本だけの傾向ではない。世界中の多くの国で進行中なのである。
以下、著者の三橋貴明氏が口を酸っぱくして教化に努めている、GDPのプロセス、デフレのメカニズム、インフレ対策とデフレ対策の違い、そしてグローバル経済の危険性などについての解説が続く。また、デフレとは「総需要の不足」が原因で発生するものであり、その解決策は、通貨発行権という強権を持つ中央政府が「お金を発行し、借りて、国民の所得になるように使う」という正しいデフレ対策も詳述。外国人投資家向け政策ばかりを推進する安倍政権を批判する。さらに三橋氏は、現在の世界は「新古典派経済学に代表される主流派経済学」と「利益を追求するグローバル投資家と経営者」たちの都合が一致し、各国の政府が「黄金の拘束衣」で身動きがとれない、あるいは「自国の問題を解決しない」行動を強制されている状況にあると喝破。そのうえで、日本国が「黄金の拘束衣」を脱ぎ捨て、国民が豊かになる経済を取り戻すためには、思考停止が一番まずいとも指摘する。すでに思考が完全停止してしまった為政者の目を覚ますには、私たち国民一人ひとりがグローバリストの甘言に乗せられず「常識に基づく考え方」を取り戻さなければないことは言うまでもない。