新・リーダー論 大格差時代のインテリジェンス

池上彰、佐藤優

池上彰氏と佐藤優氏による対談シリーズ第3弾。今回のテーマは「リーダー」だが、大衆迎合型ポピュリズムが勢いづいている現在の世界情勢において、一元的に語るのは難しいという。英国のEU離脱、米国大統領でのトランプの躍進(本書の刊行は米大統領選挙前)、フィリピンのドゥテルテ大統領誕生などは、社会の指導層、エリート層に対する大衆の不満が爆発した結果。つまり、従来のリーダーやエリートの在り方それ自体が問われているのが現状なのである。その源泉は、経済のグローバル化、すなわち新自由主義の浸透に見ることができ、格差が拡大し階層が固定化していく中で、エリートと国民の間の信頼関係が崩れ、民主主義がうまく機能しなくなっている。民主主義は世界中で機能不全に陥っているのだが、民主主義に代わる政治体制が見つからないのが問題になっている。

そんな中で、最適なリーダーを見出すにしても、リーダーが単に強ければ良いわけではない。ロシアのプーチン大統領がいい例で、教養は相当深いが、メンタリティは国家の政治指導者というよりKGBの中堅職員なので、オリンピックのドーピング問題でも「他国もやっている」と言い放ってしまう。その発言がどれだけロシアの失墜されるかがわからないのだ。また、クリミア問題でも「併合するつもりはない」と言っていたのに数日後には併合したことからも、彼がきちんと帝王学を収めていないから、法や慣習、国際社会の世論を初めから無視することになってしまう。企業でも、新入社員から始まって、一つひとつ段階を経ながら上位のポストを任されるもので、そういう経験を積んだ上で頭角を現す者をリーダーにするのが理想だ。プーチンのように、倉庫番からいきなり社長にしてしまったら、たちまちのうちに会社は傾くだろう。世の中がそれだけ乱暴になっているということだ。

ここまで本書のほんの一部分を抜き出したに過ぎないが、池上氏と佐藤氏が錯綜する国際情勢の裏側をあたかも知り尽くしているかのように縦横に語り流すスタイルには、脱帽しながらも知的好奇心が大いにかき立てられ、ページをめくる手が止まらない。おそらく、書籍には書けない、もっとコンフィデンシャルな情報も持ち合わせていることだろう。冒頭でリーダーを語るのは難しいとした両氏だが、リーダーを育成するためのヒントをいくつか提示している。まず「教育」。それも文化や小説などに精通した教養。そして「帰属意識」。企業で言えば終身雇用制、職能組合や地域活動がしっかりしているならそれでもよく、とにかく人間が成長するには何かに帰属することが大切と説く。新自由主義によって個人がアトム(原子)化している中で、人間が「群れをつくる動物」として「組織」と「リーダー」を求めている存在であることを改めて認識する必要がある。


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