日本国内で諜報活動を行うロシア人機関員を追い続ける、警視庁公安部外事一課四係。所轄の婦警がロシア大使館公用車を偶然発見したことがきっかけで、ロシア人機関員が自衛隊幹部と接触して内部情報を得ている事実を掴み、その後約1年にわたって秘匿追尾を開始する。ロシアによる諜報活動の実情、自衛隊員の家庭事情、そして警察上層部と現場スタッフとの確執などを描いた重厚なノンフィクションだ。
中高生の頃、あぶない刑事が大好きだったせいか、いまになっても警察や刑事、スパイ関連のノンフィクションをよく読む。わざとらしく作り込まれた小説とは違い、実録ならではの緊迫したリアリティを味わえることが第一の理由だが、その裏に横たわっている泥臭い人間ドラマを無視することはできない。今作品では特に、ターゲットとされた自衛隊員の家庭における悲劇に胸を突き上げられるような思いがした。
心に大きな穴を抱えながら生きていくのも人間、そうした人から情報を引きだそうとするのも人間、そしてそれを阻止しようとするのも人間。どんな立場であれ全力で職責を果たそうとするからこそ、人の心を打つ人間ドラマが生まれるのだ。