ジャーナリストの池上彰氏と元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が、新聞、雑誌、ネット、書籍といったさまざまな媒体を読み解くテクニックを語り合う対談集。全国紙だけでなく地方紙も含めた10紙以上、さらには週刊誌、月刊誌、国内外のニュースサイトなどにも目を通し、特に佐藤氏は毎月300冊以上の本を読んでいるという。自身の連載や番組出演、講演などで多忙なはずの両氏に、いったいどうしてこれほどの情報をインプットできる時間がつくれるのか。その秘訣は、世の中で起きていることを「知る」ことと「理解する」ことに分け、そしてあらゆる媒体を読みこなすための基礎的な知識を固めることにあると口を揃える。まずはもっともメジャーな情報源と言える新聞だが、1日10紙以上手に取るとはいえ、そのすべてのページ一言一句くまなく目を通しているわけではもちろんない。朝、記事に中身は詳しく読まず見出しを中心に流し読みし、興味を持った記事は夜に熟読する。この手法で新聞にかける時間は、池上氏は1日に1時間20分ほど、佐藤氏は2時間以内にとどめている。新聞を読みこなすコツは、まず継続して新聞を読む習慣をつけた上で、論調の異なる数紙を併読することだという。
ほか、雑誌や書籍といったレガシーな紙媒体の読み方についての対談が続くが、その中でひときわ注目したいのが「ネット」という新しいメディアとの接し方だ。近年ではスマホの普及により、ポータルサイトやSNSで情報収集している人が多いが、「ネットは上級者のメディア」であると両氏は警告する。ネット情報は玉石混淆、ネットサーフィンで時間を浪費したりノイズ情報に惑わされる危険性はよく言われているが、入手できる情報の多くが2次情報、3次情報。ヤフーニュースをはじめとするポータルサイトはマスメディアからの転載だし、個人発のSNSはそもそもリソースとして怪しいため、情報としての精度が高いとは言えず効率が悪い。さらに、ネットには特定のものだけが大きく見えたり別のものが見えなくなったりする「プリズム効果」にも注意が必要だ。自分からアクセスしない限り見たくない情報には触れずに済むので、関心のあることには詳しくなれる一方、それ以外は知らないままでどんどん視野が狭くなる。そのため、「ネットの論調=社会全体の論調」と思い込んでしまう傾向にあるのだ。ネットの情報は「読む」もののではなく「見る」ものだという指摘もうなずける。
本書は、日本のみならず世界の動きをリアルタイムでキャッチアップしている両氏が、世の中に絶えず流れているさまざまな形の情報をどのように触れ、どのように吸収しているのかを余すところなく語り尽くした一冊。日々飛び交うニュースの重要度には個人差があるとはいえ、一読すれば、これまで続けてきたメディアとの付き合い方を一変させられることだろう。そんな中、世界の潮流を掴むための情報の9割は新聞や書籍などの文字情報から得られると語る両氏が、残りの1割から得られるという「人からの情報」について語っている内容も大変意義深い。詳細は本書に譲るが、文字情報の継続的な蓄積があってこそインテリジェンスの王道であるヒューミント(人間を媒介とした諜報活動)が生きることを押さえておきたい。