心に響く小さな5つの物語

藤尾秀昭

読めば心打たれ涙せずにいられない感動のエピソードが5話収録された短篇集。小学生だったイチローがプロ野球選手を目指す決意を書いた作文や、重度の脳性麻痺で意思疎通が殆どできない少年が養護学校の先生を通して綴った愛する母への感謝の手紙など、人はどんなに辛い逆境やハンディを抱えていても、周りの人との縁を大事にし感謝の気持を忘れずにいれば、必ず夢や希望を実現でき、強く優しく生きていけることを教えてくれる。

なかでも、第5章「縁を生かす」は最も感動的だ。当時小学校5年生の先生だった女性には、服装がみすぼらしく不潔な生徒がいた。彼女は彼を毛嫌いし悪い評価ばかりあたえていたのだが、いつしか彼の成績表から、1年生の頃は明るく元気な子だったが、その後母親を病気で亡くし、父親から虐待を受けていたことを知る。自分が間違っていたと悟った彼女は彼の面倒を見るようになり、卒業時に「先生は僕の本当のお母さんみたい。これまでで一番素晴らしい先生でした」との手紙をもらった。そして、時が過ぎ、彼は医者となった。その間も彼女は彼と手紙のやりとりをしていたのだが、ある時結婚式の招待状が届く。そこには「母の席に座ってください」と書かれていた。

読み終わって、先日奈良に行った時、あるお寺でお坊さんが話してくれたことを思い出した。「人は誰でも誰からの支えがあって生きている。その人たちは『陰』になって、あなたを支えてくれているのです。だから『お陰さま』という気持ちを忘れてはいけません」という内容だった。『お陰さま』。とかく個人プレーに陥りがちな都会での生活において、この言葉がどれほど私の心を打ったかしれない。年末、田舎に帰省する前に、いい本に巡り会えたと心から思った。


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