日本をダメにしたB層の研究

適菜収

B層とは、「マスコミ報道に流されやすい『比較的』IQが低い人たち」のこと。これは著者の適菜収氏の造語ではなく、自民党が郵政解散選挙に臨むにあたって広告会社に作成させた戦略概念のことだという。そのB層という響きからは、B級グルメやゆるキャラといった弛緩作用が連想され、どこか素朴で庶民的、かつ親しみやすささえ感じてしまうのだが、適菜によればこのB層こそが日本を内側から滅ぼす病原菌たる存在であるというのだ。

結果から言えば、日本国民のB層化が進んだことにより、「自民党をぶっ壊す」と公言した小泉純一郎政権を長期存続させ、「日本をぶっ壊」そうとした民主党が政権を握ることを許し、「グレートリセット」で日本を売り飛ばそうとしている橋下徹の跳梁を支えた。こうした事態に至った背景には、当該為政者らによる耳障りのいいキャッチフレーズの連呼と、それを面白おかしく拡散したマスコミの存在がある。それにまんまと乗せられたB層は、自らが素人か玄人かの区別が付かなくなってしまった挙げ句、まるで自分が世界の中心になったと錯覚し、マスコミが創りあげた無実の抵抗勢力に牙を剥くこととなった。そして、小泉や民主党政権、橋下らの台頭を大歓呼で迎えたのだ。

こうしたB層ではあるが、彼らは単なるお人好し(単細胞)でもなければ、革新的活動家でもない。むしろ、新聞やテレビを丹念に見聞きし、平等主義や普遍的人権などについての理解が深い。ではなぜ、彼らは社会の一級市民として扱われず、B層などというワンランク下にポジショニングされるのだろう。その理由は単純だ。彼らは合理的かつ理性的であるがゆえに、良識や日常生活のしきたり、教養などを軽視するので、「改革」「革命」「維新」といったキーワードに弱い。その結果、彼らはマスコミや有力者の言説に容易に踊らされ、騙されていくのだ。

B層が、テレビで紹介されたラーメン屋に列をなし、グローバリズムに乗り遅れまいと英会話スクールに駆け込み、緊急来日した韓流スターに群がるなどはまだ可愛いほうだ。困るのは、インターネットなどでにわか知識を身につけたB層が、議会制民主主義の根幹を揺るがし始めたということ。本来、専門分野は専門家に任せねばならないところを、B層は「参加することに意義がある」とばかり、知らないことにまで首を突っ込みたがる。悪いことに、現職の政治家までもがB層的思考を持つようになってしまい、ついには素人が国を動かすという悪夢が起きてしまった(民主党政権)。行きすぎた民主主義は全体主義を生むという歴史的教訓など、彼らにはお構いなしだ。B層が声高に詠唱する「民意」はデマゴギーとなり、それは最終的にデマゴーグを生む。そうなってしまったら、民意の暴走から国家や社会、共同体を守るべき真の意味での政治家がこの日本から消失してしまうだろう。

こうなる前にB層が気づかねばならないことは、「餅は餅屋」だということ。その道のことは専門家に任せることが最良であるということだ。いまやインターネットの発達により、これまでまったくの門外漢だった者が明日には物知り顔で天下国家を語れるような時代である。ネットを回遊中にたまたま見つけた“自分だけが知り得た情報”に心酔してしまい、あたかも自らが救世主になったかのような思い込みすら容易に抱ける時代とも言える。本来であれば、ここでひと呼吸して、謙虚に周りを見回してみる心の余裕が必要なところだが、適菜氏に言わせれば「もう完全に手遅れ」だそうだ。

たしかにわからなくもないが、私の場合、テレビを捨てて見なくなったことで、かつて私自身B層だった現実がよく見えてくるようになった。その状態で、改めて2ちゃんねるやYahoo!ニュースの書き込みなどをよく読んでみると、いまや“扇動”を目的にしたものはかなりの確率で見分けられる。TPP、消費増税、尖閣問題、慰安婦論争、シリア情勢……私もまだまだB層ではあるが、重篤なB層を見つけると「ダメだこいつ、早く何とかしないと」と思わずため息をついてしまうのである。


日本をダメにしたB層の研究” への2件のコメント

  1. B層は潜在的に社会に不満を持っている場合がおおいい。マスコミはそこを刺激する。そうすれば攻撃対象にむけてエンヤエンヤと攻撃すうのだ。B層は知的階級が低いといわれるが知的階級が低いのではなく、コンプレックスが強いのだと思う。勿論知的階級が低ければ相対的にコンプレックスが強くなるのは必然的ではあるが。知的階級が高いB層の暴走がオウム真理教の事件である。

    • ハーゲ彗星さん、コメントありがとうございます。

      ネットなどで社会の歪や矛盾に気づき、それを解消するための知識や方法論を身につけたものの、どうすればいいのかわからない。これはフラストレーションになるし、積もり積もればコンプレックスにもなりますね。こうした風潮の興隆は体制側には迷惑だから、マスコミを使って巧みに世論操作しようとするのも頷けます。こうしたB層とマスコミのぶつかり合いはこれからも続くんでしょうね。
      たしかに、オウム事件の実行犯はみな高学歴・ハイスキルの持ち主でした。B層を凶悪犯罪に染め上げることなく、正しい方向に導いてくれるには、正しい知見と行動力、愛国心を持った指導者が必要なんだと思いました。

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