反日プロパガンダの近現代史:なぜ日本人は騙されるのか

倉山満

日本人はこんなに真面目なのに、なぜ世界の中で認められないのか。戦前は富国強兵に励んで文明国になり、日露戦争に勝って一等国になったと思ったら、あっという間の転落。戦後は敗戦の焼け野原の中から復興し経済成長をしたら「エコノミックアニマルだ」と言われて叩かれ、いまも日本は頭を押さえつけられたまま。その原因として、まず挙げられるのが本書のテーマである「反日プロパガンダ」。これは言うまでもなく、日本を貶め滅ぼす目的で行われる政治宣伝のことであるが、では果たしてその反日プロパガンダを最も垂れ流しているのはどこの国だろうか。著者の倉山満氏が、プロパガンダによって踊らされてきた日本の歴史を紐解きながら、世界に蔓延するプロパガンダの実情を伝える。

まず倉山氏は、プロパガンダの卑近かつ典型的な例として、2013年秋に安部総理が消費税増税を決断した事例を挙げる。安部総理は決断の直前までは増税に反対の立場であったが、東京五輪開催が決まるや自民党の大勢が「これで増税ができる」となってしまい、マスコミは連日「安部総理、増税決断」という記事を流した。裏を取っていないのにも関わらず、いやだからこそプロパガンダはどんどん増幅され、いつの間にか安部総理が逆らえない流れができあがってしまった。この結果、安部総理は増税を回避することができなくなり、「増税しても大丈夫な対策を探る」と精一杯の抵抗姿勢は見せたものの、結局プロパガンダの罠にはまってしまったのである。

安部総理は「決まったことです」という増税圧力に負けてしまった形だが、日本はこれと同じようなことを対米開戦を決定する際に経験している。当時、日本はアメリカからの経済制裁により石油の輸出を止められていた。石油だけを獲得するのであればインドネシア攻略で十分だったが、なぜか真珠湾攻撃という挙に出る。これも「対米開戦は流れとして決まったことなのだから、どうやって戦うか考えよう」という時流に乗った判断であり、これこそが「大人の態度」であり「リアリズム」だと勘違いしてしまったからだという。こういった大人の態度という言い訳こそが大局観を潰されてプロパガンダに踊らされた証拠であり、自分を慰めているだけの思考回路は日本人が持つ最大の問題点だ。この傾向は、二者択一しかない問題への対処が下手な日本的官僚機構や自民党政治のシステムによく見られるという。

一度空気の流れができてしまうとそれに乗ってしまうのが日本人と言えるのだが、何も昔からずっとそうだったわけではない。豊臣秀吉や徳川家康らの戦国時代を生きた武将や、明石元二郎や石井菊次郎ら近代日本の礎を作った武人など、明治期以前の日本にはプロパガンダを駆使して活躍した人物が数多くいた。本書ではそういった人物を列記しつつ、中韓のみならず世界から日本がプロパガンダのターゲットになっている現実を紹介していく。頭のいい人が言ってるから、権威ある報道機関が伝えているから、こういった理由で情報を鵜呑みにしてしまうことがどんなに亡国的な行為であり、また自ら反日プロパガンダの片棒を担がされているという現実に、ひとりでも多くの日本人が気づかねばならない。


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