まちづくり×インバウンド 成功する「7つの力」

中村好明

「インバウンド」とは、外国人が訪れてくれる旅行のことであり、要するに外国人による訪日旅行のこと。そもそもインバウンドという言葉自体、観光業界関係者しか知らない言葉だったのだが、中国人による「爆買い」により一般レベルにまで認知度を高めた。一時、社会現象ともなった爆買いだが、市況や政治情勢に左右されるかたちで、やや下火になりつつある。では今後、爆買いをはじめとするインバウンド効果は望めないのか。いや、むしろ今後人口減少による経済力の衰退が予見される日本にとって、持続可能な経済を実現するうえで、最重要な政策的意味合いを持ってくる。加えて、インバウンドのマーケットは確実に拡大していくことが見込まれている。国際観光人口は年々増え続けているしアジア諸国の海外旅行熱も期待できるため、これから成長が期待できるビジネス分野と言っても過言ではない。ただ、留意しなければならない点として、勝ち残れるインバウンド、負けて淘汰されるインバウンドがあるということだ。

インバウンドを成功させるためには、海外からの訪日観光客だけを見ていればよいというものではない。大事なのは、日本国内、日本人を相手にした商売が繁盛すること。すなわち地元客、そして国内の大都市圏から来る観光客に愛され、支持される努力をすることが、インバウンドを成功させる力の唯一の源泉となる。つまり、日本人相手の商売を無視しては、インバウンドも成り立たないということだ。実際、各地でさまざまな取り組みが行われている。寿司づくり体験、雪山でのスキー、田植え体験などといった、団体ツアーではなく、個人旅行(FIT)に的を絞った高付加価値のサービスを提供しているところがある。爆買いをしてもらって目先の利益を得るのではなく、個人旅行で日本を訪れる外国人観光客が満足し、リピーターになってくれるようなサービスや付加価値の提供ができるかが問われてきているからだ。

本書では、実際に独自のアイデアで成功を収めているケーススタディや、インバウンドリーダーが兼ね備えておくべき7つの資質を通して、日本のインバウンド戦略の未来を学んでいくが、その中で興味深いくだりがある。これは著者の中村好明氏が京都在住45年のアメリカ人から聞いたという話だが、世界の国々は「受信者責任型社会」と「発信者責任型社会」に分かれるという。日本は前者。発信者側が自分の伝えたい情報の全部を発信する必要はなく、発信者が相手の意図を汲み取る文化であるため、お客様が何も言わずとも先回りしてサービスを提供すること、かゆいところに手が届く究極のおもてなしとしている。その逆となるのが、発信者責任型社会となり、個人が主張してアレンジしていく形なので、当然受信者責任型社会に行ったときにズレを感じる。お通しやあらかじめ決められた食事時間などがそれに当たるだろう。これからは団体ツアー客以上に、個人旅行の客を受け入れる下地づくりがより一層重要になってくるだろう。


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