スノーデン 日本への警告

エドワード・スノーデン

2013年6月、エドワード・スノーデン氏により、アメリカ連邦政府の監視捜査の実態が白日のもとに晒された。光ファイバーに直接アクセスして膨大なインターネット情報を取得していたこと、グーグルやフェイスブックといった世界に名だたるインターネット会社に顧客の個人情報を提供させていたこと、議会や裁判所の監督が実質的に骨抜きとなっていたことなどが次々と暴かれていった。この出来事は、情報社会のあり方を大きく変える一大転機となった。これは日本にとって対岸の火事ではないはずだが、日本では捜査機関自身が内部情報を公開することも議会に検証委員会が設置されることもなく、月日が経てばなかったようにされてしまう。偶発的な事情によって氷山の一角が明らかにされても、その氷山がどれほどの大きさなのかうかがい知ることすらできないのだ。スノーデン氏はこう語っている。「トップ・シークレットとされる情報にアクセスできるようになり、政府が公表する内容とかけ離れた活動に従事していることに気づくようになったのです。(中略)国が掲げる価値観と正反対の活動がなされていることに気づいたのです」。そのうえで、市民と政府が対等の当事者として社会に関与していくには、政府が求める権限の概要と外延は市民に知らされなければならないと訴える。だが、日本とアメリカは市民に対する監視活動をますます強めている。

ベライゾン、コムキャストといったアメリカを代表する通信事業者は、法律に基づいて、米政府が設備にアクセスできることを認めている。政府は、これらの会社の設備を経由するすべての通信情報にアクセスすることができ、自分たちが求めている情報を選り分けて入手する。また、米政府は、容疑を抱いた相手がアメリカ人でない場合には、裁判所の令状を得ずに監視できる。つまり、日本人やフランス人やドイツ人などの外国人に関するものであれば、フェイスブックやグーグル、アップルが保有する情報を裁判所の令状なしに得ることができるのだ。日本とアメリカはインテリジェンス情報を交換する関係にあり、私たちのインターネットコミュニケーションは、国同士・大陸間でつながれた光ファイバーを通して、NSAが無許可でデータを取得し監視目的で使用している可能性がある。たしかに、一部の捜査は合法ではあるが、同時に非道徳な活動とも言える。政府は合法的に非道徳的な活動に従事することができるのだ。日本を通過する光ファイバーから、NTTコミュニケーションズがどのような情報を収集、保管しているかはわからない。

本書は、いわゆる「スノーデン事件」と呼ばれた機密情報リークについて経過を追っていくというスタンスではなく、事件の当事者であるスノーデン氏が来日し聴衆の前で語った、情報のあり方についての対談をまとめたもの。2部構成になっており、1部ではスノーデン氏へのインタビュー、2部はそのインタビューに基づいた各パネリストの対談という流れだ。事件の是非、賛否などの中立的視点に立っているわけではなく、スノーデン氏の行動が現代社会における情報の取扱について一石を投じたという前提で話が進んでいく。そのため、スノーデン氏を英雄視する向きがあり、政府は民主主義やジャーナリズムの正義を阻害しているといった大筋が語られていくので、全編にわたって素直に首肯できたというわけではない。だが、政府による市民に対する情報取得の実態を知らしめたことは大変意義深いことには違いない。


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