香りや見た目で脳を勘違いさせる 毎日が楽しくなる応用心理学

坂井信之

人の味覚やおいしさの本質、食べ方やダイエットのポイント、そして見た目の高感度や香りによって人間は無意識に行動が変わってしまうということが、さまざまな実験や研究を通してわかってきている。なぜその食べ物が嫌いになるのか、なぜ香りで人を好きになるのかなどは、生まれつき人に備わった野生の本能、つまり脳で説明できる。しかし、ケージの中で飼っている動物の行動だけを見ていても、人の食べ物に対する好みの個人差や、においで人を嫌いになることなど、説明できないことも出てくる。このようなときに、脳科学と心理学の知識があれば、「脳を勘違いさせる」ことで毎日を楽しく過すことができるようになるのだ。「ケンカしたパートナーと仲直りをしたいと思ったとき」「今日は料理の味付けに失敗したかなと思ったとき」など、日常的に発生するちょっとした揉め事を解決してくれるヒントは、実は意外なところにある。

フランスのポルドー大学でとある実験が行われた。被験者は、ワイン会社で働きながらワイン醸造師という国家資格を取るために学んでいる人たち、つまりワインの専門家だ。まず白ワインを飲んで味について語ってもらい、その次に同じ白ワインに赤い色素を入れたものを飲んでもらった。すると、白ワインとして飲んだときとはまったく違う評価となった。実質的には白ワインなのだが赤い色が付いていたため、赤ワインと間違えたのだ。ワインのプロが赤い色に騙されて白ワインを赤ワインと間違えるという話は、人間にありがちな「錯覚」のほんの一例。この実験からわかることは、食べたり飲んだりするときには「見た目」がものすごく重要だということ。人が感じる味は、目で見たときにはほぼ決まっているのだ。

また、アロマセラピーに関して興味深い実験結果がある。アロマオイルやお香を嗅ぐことで気持ちが落ち着いたりストレスが軽減する効果があるのだが、その多くは鼻ではなく脳で嗅いでいることがわかっている。集中力を高める香りとリラックスする香りの効能書きを間違えて渡したところ、香りの効果よりも効能書きに書いてある効果のほうが大きかったことがあった。プラセボ効果だ。アロマセラピーの場合、効能についての詳しい説明とマッサージがセットになっていて、複合的に効果を上げている。香りに関して、嗅いだ人の心拍数が変化するという実験結果もあり、においだけで効果を決めているとは考えづらい。ほか、対人関係に大きく影響する香りと見た目のトピックスなど、平易な文章で紹介されている。自己流のファッションを貫き通すのも結構だが、それに心理学をプラスすることで自分自身をさらに魅力的にしてみてはいかがだろうか。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です