脳に悪い7つの習慣

林 成之

脳は気持ちの持ち方や行動次第でその働きを良くも悪くもできるものだが、多くの人がこのことを知らないために脳が持つ素晴らしい力を発揮できていると、著者で脳神経外科医の林成之氏は指摘する。長年にわたって救急救命医療の最前線で活躍している林氏が、瀕死の人の命を救うという仕事の中で、チーム全員の脳をフル稼働させその潜在力を最大限にまで引き出してきたノウハウを伝授。脳の情報処理の仕組みからスタートし、「脳に悪い習慣」と「その習慣をやめ脳を活かすための具体的な方法」を解説する。

脳が最初に情報を受け取る脳神経細胞は、生まれながらにして3つの本能を持っている。それは「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」。こうした3つの本能に逆らうことなく磨いていくことこそ、脳の機能を最大限に活かすことにつながり私たちがより良く生きていける秘訣となる。いまの社会では他人とかかわらずに生活することはできない。「生きたい」「仲間になりたい」という本能を現代社会の枠組みの中に置けば、脳が求めるのは「世の中に貢献しながら安定して生きる」こと。この貢献心を脳の二次的な本能として捉え、高めることが脳の働きを倍加させるベースともなり得る。また、「知りたい」という本能を否定してはいけない。何にでも興味を持つことは、物事の習熟に優れ、頭の回転が速くなることにつながるからだ。

これら3つの本能が脳の働きを左右する重要なファクターであるが、脳の仕組みにおいてはもう一段階知っておくべき本能がある。それが「自己保存」と「統一・一貫性」だ。前者は「脳は自分を守ろうとする」、後者は「脳は統一性、一貫性が保てなくなるような情報を避けようとする」ということ。この2つは、脳が発達するプロセスで獲得する後天的な本能で、特に成長にともなって自我が芽生えると顕著に現れてくる。これらはプラスの作用を持っているが、脳のパフォーマンスを貶す原因になることもあるので注意が必要だ。たとえば、自分と反対の意見を言う人を嫌いになるという反応。脳は自らの意見と異なるものを「統一・一貫性」に外れるため拒否し、また「自己保存」が働くことにより自分を守ろうとするため相手を論破しようとさえしてしまう。こうした特徴をうまくコントロールしてバランスを取ることも、脳を最適化するための欠かせない要素となってくる。

本書は、こうした脳の特性を見極めたうえで、脳に悪い習慣を7つに分けて紹介。脳が本来求めている「違いを認めて、共に生きる」ことを至上命題に、7つの悪い習慣一つひとつを紐解き、解決策を提示していく。趣向的にも分量的にも一気に読めてしまう内容だが、書かれていることは非常に味わい深く示唆的だ。私などは、7つの悪い習慣のほぼすべてに当てはまることに愕然としつつも、何かとひとりよがりで強引に物事を進めようとする自身の性行に改めて気付かされ、もうちょっと器用に生きることを模索してみようと思い至った次第だ。


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