動物には、種によってそれぞれの生き方があり、「言い分」がある。猫は群れないでひとりで生きてきたので、私たちの言うことをなかなか聞かない。一方、犬は集団で獲物を捕ることで生きてきた。集団であれば、誰がリーダーであるかが問題となる。狩りをするには、個々が勝手に行動しては捕まるものも逃がしてしまう。リーダーの統率の下、協力してはじめて大きな獲物が捕らえられる。飼い犬はリーダーが頼りないと感じると、自分がリーダーになろうとする。そうした犬は散歩のときにはヒモを引っ張り、吠えて物を要求したりする。自分より順位が下だと思えば、飼い主のことを聞かなくてよいと考える。人から見れば「問題」と思える行動も、犬からすれば当然のことをしているまでなのである。
おそらく、こうしたことは、自宅でペットを飼っている人なら常識的なことかもしれない。あるいは、犬や猫といった身近な動物の生態についてはテレビの特集などを通してある程度見識は広まっていると言っていいだろう。だが、その他の生物についてはどうだろうか。熱帯や寒帯に生息する生物が厳しい気候の中でどう身を守っているか、いくらか想像することはできても、たとえば、わざわざ真冬の雪上を歩き回る虫がいたり、ある特定の時間帯にしか交尾しないガがいたり、光らないのにホタルと呼ばれるホタルがいたり、といったことには答えられないだろう。そういう虫がいることすら知らないと言ってしまえばそれまでだが、夏になったらセミが鳴くことくらい、当たり前になっていて気づかないのかもしれない。
本書は、動物や昆虫といった生物について、思わず誰もが首を傾げたくなる生態を取り上げたエッセイ集だ。著者は、日高敏隆氏という動物行動学者だが、本文中堅苦しく感じる箇所はひとつもなく、全編を通して一般人と同じ視線で動物に向き合う。したがって、「これはいったいどういうことなんだろう」という調子で、不思議な生態についての解答は出さずに文を結んでいることが多い。これはおそらく日高氏の本音だろう。動物や昆虫の生態についてはわかっていないことがほとんどで、たとえ動物行動学者でも未知の分野にあふれているということと解釈したい。そのため、本気で動物行動学について学びたい人には勧められないが、気分転換がてら何か本を読みたい場合には手に取っていいだろう。