「幸せなお産」が日本を変える

吉村正

器具や薬は一切使用しない、人類が太古の昔より連綿と続けてきた自然分娩だけにこだわる産科医。現代社会の育児放棄の淵源は幸せなお産が少なくなったことだと喝破し、自身が立ち会った2万以上のお産にまつわるエピソードや、これからの日本を背負って立つ若者たちに向けた力強いメッセージを送る。

愛知県にある吉村医院では、たとえ逆子でも早産でも、鉗子分娩や吸引分娩、帝王切開は絶対に行っていない。どんなに難産が予想される産婦であっても、自然分娩で生ませているのだ。一般の病院では、医者が金を儲けるため無理やり赤ちゃんを引っ張り出しているだけで本来のお産ではないと断じ、また、その不自然なお産が原因で子供が精神不安定や病弱に育ってしまうとも言う。

吉村医院では、赤ちゃんは胎内ではどんな状態だったとしても、みな「つるんと」生まれてくる。そして、身体検査など不要なことはせず、生まれたらすぐに母親に抱かせる。そうすることで愛情ホルモンが分泌され、一生この子を愛し抜くという強い思いが醸成されるのだという。そうした母親が育児放棄に走るケースはあり得ず、子供もまた家族を大切にする思いに気づくのだそうだ。

「(自然分娩が当たり前だった)江戸時代の自然な生活に戻れ」。著者が伝えたいことははっきりしており、それが似たような言い回しで延々と繰り返される。次第に冗漫に感じられてこないでもないが、お産、それも自然分娩という神秘的な現象にずっと立ち会っていると言語を超えたスピリチュアルな見方になるのも仕方のないことなのだろう。でも、それはやはり、生命の誕生を体験した人なら共通なのかもしれない(今のところ僕にその予定はなし)。


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