反動世代―日本の政治を取り戻す

森 健

リベラルを掲げれば左翼と罵られ、愛国を唱えるとネトウヨだと白眼視される。民主党政権時から安倍自民党政権へと移行した現在の日本において、論壇で活躍する言論人を右左どちらか一方にふるい分ける作業が行われるようになって久しい。それは、マスコミが一元的に情報を握って大衆を小突き回していた時代がインターネットの登場により終焉を迎え、これまで大学教授や著名な評論家に限られていたオピニオンリーダーの役割が、“一般人”がネットを介して発言力と影響力を増していった現実と軌を一にしている。本書には、こうした時代の代表的人物である中野剛志、三橋貴明、柴山桂太、施光恒が登場。ジャーナリストの森健が、彼ら4人の政治経済的理念を軸に、反対勢力と真っ向勝負する姿勢をインタービューする。

タイトルの「反動世代」とは、安保闘争や成田闘争など極左的過激思想を持った世代ということではない。根は保守ではあるが左にも右にも論議を挑み、その時代に合った正しい政治、経済政策を押し広げていこうという、真の意味での“ブレない”思想を持った世代のことだ(中野の造語)。いまや反TPPの尖兵であり日本が持つグローバリズム、自由貿易への偏見を批判する中野、ブログや著書を通じてデフレ脱却を念頭に置いた経済政策を訴える三橋、アダム・スミスやケインズなどの経済理論を歴史学の視点から捉えて冷静な論理を構築する柴山、むやみの国外の施策を取り入れることはせずあくまで日本の国柄に合った国づくりを推進していこうと主張する施。インタビューは、彼らの基本的理念を中心に据えながらも、その生い立ちや独自の論考に至った経緯と出会い、そして自らの意見を積極的に世に広めていこうとした決意までを、非常に客観的な視線で進行していく。

反自由主義やデフレ脱却、構造改革批判などをぶった著作はそれこそ星の数ほど出版されているが、雑誌の対談は除き、本書のようにその主人公たちが論評のみに留まらずプライベートな部分も含めて赤裸々な心情を吐露する著作というのは珍しいのはないだろうか。私自身、三橋氏のファンということもあり、彼の著作は出版されるごとに目を通しているのだが、これまで著述活動をするに至った経緯から今後の姿勢などをまとめて読んだことはなかったと記憶している。それは他の3人についても同様だ。それぞれの人となりに触れる良い機会でもあるし、また彼らの著作を手に取る前に予備知識を仕入れる目的で読んでもいいかもしれない。

あとがきにて注目されるべき記述がある。以前4人が集まった酒の席で、三橋が「ここにいる五人(現内閣参与の藤井聡氏を含む)はみんな死ぬんですよね。十年後、みんな生き残ってないですよ」とこぼした。それを聞いた中野ははじめ何を言っているんだと訝ったが、死ぬというのは生命的にではなく言論的に抹殺されるということだろうと思い直したという。それはおそらく、その場にいた全員が得た共通認識ではなかっただろうか。いくら理念的に正しいという確信はあっても、時流に反する活動をするということはまさに命懸けなのだ。私たちもそうした彼らの著作を手に取るのであれば、彼らの「覚悟」をも読み取らねばならない。


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